愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
 蘢が朧とタキに視線を送ると、胡座(あぐら)をかいた彼らは、一瞥もせず黙って頷いた。

「それをどうやって手にしたか、きっと無自覚でしょうが、どう考えても主殿の〝精気〟に違いないのです。それを取り入れたことで妖気になって表に出ているのでしょう。あくまで……仮説ですが、身体を壊した季音殿は、回復のために本能的に主殿の精気を奪ったのかもしれません。しかし、精気を奪う手段としては……今の季音殿にはそんな行為に及べないと思いますし、主殿もそんな真似はしないと存じます」

 ――狐の妖は人の男と肌を重ねて精気を奪う。
 蘢はこれを言いたいのだと、季音はすぐに理解した。

 だが、夫婦になったあの日から、龍志と何度も肌を重ねたが、そんなことは今までに一度もなかった。それに、体調を崩してからは、彼と肌を重ねてもいない。
 なぜ今なのだろう……自分はどうやって彼から精気を奪ったのか……。
 季音は俯き、黙考する。まさか肌に触れただけで奪ったというのか。だが、繋がるように触れたことには一つ心当たりがあった。寝る前に彼が触れるだけの接吻(くちづけ)を落としたこと。

「まさか……」

 はっと顔を上げ、季音はその旨をぽつりと言った。すると、蘢はたちまち顔を赤くしてそっぽを向く。

 ……訪れたのは無言。
 だが、一つ咳払いして仕切り直した蘢は、目を細めて再び季音に向き合った。

「……その可能性はありえますね。ですが、なぜ今日の今日でこうなったかは僕にも検討がつきません。貴女の不調も関係してそうですけど、詳しい因果は分かりません。〝主殿に接吻(くちづけ)されそうになったら暫くは拒む〟としか対処しようもありませんね」

 呆れているのか怒っているのかは不明だった。だが、いまだに顔が赤いので羞恥もあるのだろう。そんな蘢を見ていると、季音も羞恥が込み上げてくる。

「分かりました」

 短く応えると、頬を染めたまま蘢は頷いてくれた。

 しかし、人の精気を奪うなど本当に自分ができるのだろうか? だが、できないわけではない。と、季音はすぐに思い直した。

 ……以前は妖術を使ったのだ。
 間違いなく自分の中に居る、あの狐の仕業だろうと想像は容易い。

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