愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
「ここはさ。小汚いぼろ屋だが……輪廻前からの俺とお前の家だ。こんな場所でやりあえば家も社も壊れる。恨み晴らしなら付き合ってやるから、そのくらい俺の我が儘を聞け……って、お前の中の狐に伝えてくれ。あいつ、俺のことは嫌いでも、お前のことをどこか心配してた。多分聞いてくれるだろ」
季音は頷き、涙で濡れた瞳で龍志を見下ろした。すると、彼は血の気のない手を伸ばし、季音の髪を掬うように撫でた。
「……おい、やめろよ。そんな顔をされると、俺が死ぬ寸前みたいに見えるから止めろ。ほら笑え」
こんな状況でどうしてそんな冗談が言えるのだろう。そんな風に思えてしまうが、季音は彼の言葉を呑み、涙を拭って頷いた。
龍志は安堵したように笑んだ。それから一拍も経たぬうち、彼は卒倒するように眠りに落ちた。
彼の生命力は妖並――蘢の言った言葉を信じるしかない。眠りに落ちた彼の胸が上下していることを確認すると、季音は床に置かれた自分の着物を持ち、一目散に社へ向かった。
だが、正面まで行くまでもなく、蘢と朧、そしてタキも社の端で呆然と立ち尽くしていた。
「季音殿です、よね……?」
赤々とした瞳を丸く開いた蘢は、短刀を握り、季音を真っ直ぐに見つめて問う。季音は無言で頷き、再び溢れる涙を拭い、彼らに向きあった。
「……蘢様、朧様、それからおタキちゃんも。龍志様の元へ行ってください。私は龍志様に言い渡された約束の場所に向かいます。彼をお願いします」
ただそれだけを告げ、季音は鳥居の脇を通り抜け、社を後にした。
季音は頷き、涙で濡れた瞳で龍志を見下ろした。すると、彼は血の気のない手を伸ばし、季音の髪を掬うように撫でた。
「……おい、やめろよ。そんな顔をされると、俺が死ぬ寸前みたいに見えるから止めろ。ほら笑え」
こんな状況でどうしてそんな冗談が言えるのだろう。そんな風に思えてしまうが、季音は彼の言葉を呑み、涙を拭って頷いた。
龍志は安堵したように笑んだ。それから一拍も経たぬうち、彼は卒倒するように眠りに落ちた。
彼の生命力は妖並――蘢の言った言葉を信じるしかない。眠りに落ちた彼の胸が上下していることを確認すると、季音は床に置かれた自分の着物を持ち、一目散に社へ向かった。
だが、正面まで行くまでもなく、蘢と朧、そしてタキも社の端で呆然と立ち尽くしていた。
「季音殿です、よね……?」
赤々とした瞳を丸く開いた蘢は、短刀を握り、季音を真っ直ぐに見つめて問う。季音は無言で頷き、再び溢れる涙を拭い、彼らに向きあった。
「……蘢様、朧様、それからおタキちゃんも。龍志様の元へ行ってください。私は龍志様に言い渡された約束の場所に向かいます。彼をお願いします」
ただそれだけを告げ、季音は鳥居の脇を通り抜け、社を後にした。