愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
キネはへたりと畳に尻を付けてポカンと口を開く。
「はいはい、いい子だ。〝イヌタデ〟はえらかった」
あまり感情の篭もらない口調で龍志は彼を褒めた。
ワシャワシャと髪を撫でるその様はどこからどう見たって、飼い主と犬のよう。
しかし、なぜだだろう……。どこかこの光景は、キネにも既視感があった。
キネはへたりと座り込んだまま、不思議そうに龍志とイヌタデと呼ばれる狗を交互に見上げた。その視線に気づいたのだろうか。
彼はイヌタデを撫でるのを止めて、やれやれと首を振る。
「しかしな……お前はやりすぎだ。従順でいてくれるのは、ありがたいがクソ真面目は大概にしろ。怯えているだろう。今のこいつは何も悪さなんぞできない」
半眼で言う龍志に、イヌタデの尾はシュンと萎む。
「ですが……」
「ですがもクソもない」
──ほら、それしまえ。と、龍志はイヌタデに小刀をしまうように顎で示唆する。
「昨晩あんなことしちまったし、逃げることくらい想定していた。何も言わずに出て行ったなら、仕置きに明日は一日中草取りさせることも考えたが、ここまで怯えさせたじゃ気の毒すぎて何も言えねぇわ」
──悪かった。と、彼は付け足すようにキネに詫びた。
まさか詫びられるなど思ってもいなかった。もはや色々と見当違いである。
イヌタデから龍志は妖を祓う者だと聞かされていた。
きっと戻ってきたら折檻されるか、殺されるだろうと考えていた。
それに……殺されるを免れる為に、言いたいことを全て一から整理していたというのに、それは見事一瞬にして何処かに吹き飛んでいってしまったのだ。
「……わ、私を、殺さないのですか?」
キネは思ったままを告げたと同時に、龍志は切れ長の目をこれでもかという程に瞠る。
それから一拍も立たぬうちに──隣に立つ頭一つ分低いイヌタデの頭にゴチンとげんこつを落とす。
「キャンッ!」
響く悲鳴は子犬の悲鳴のよう。畳の上でお座りの姿勢を取ってイヌタデは頭を抱えて蹲った。
……まったくお前は。
ため息交じりに言って、龍志はまたもやれやれと首を振る。
「こいつが色々俺のことを吹き込んだみたいだが……お前を殺す気はない。人に害をなすような、悪いことなんてひとつもしていないだろ?」
「は……はぁ」
「はいはい、いい子だ。〝イヌタデ〟はえらかった」
あまり感情の篭もらない口調で龍志は彼を褒めた。
ワシャワシャと髪を撫でるその様はどこからどう見たって、飼い主と犬のよう。
しかし、なぜだだろう……。どこかこの光景は、キネにも既視感があった。
キネはへたりと座り込んだまま、不思議そうに龍志とイヌタデと呼ばれる狗を交互に見上げた。その視線に気づいたのだろうか。
彼はイヌタデを撫でるのを止めて、やれやれと首を振る。
「しかしな……お前はやりすぎだ。従順でいてくれるのは、ありがたいがクソ真面目は大概にしろ。怯えているだろう。今のこいつは何も悪さなんぞできない」
半眼で言う龍志に、イヌタデの尾はシュンと萎む。
「ですが……」
「ですがもクソもない」
──ほら、それしまえ。と、龍志はイヌタデに小刀をしまうように顎で示唆する。
「昨晩あんなことしちまったし、逃げることくらい想定していた。何も言わずに出て行ったなら、仕置きに明日は一日中草取りさせることも考えたが、ここまで怯えさせたじゃ気の毒すぎて何も言えねぇわ」
──悪かった。と、彼は付け足すようにキネに詫びた。
まさか詫びられるなど思ってもいなかった。もはや色々と見当違いである。
イヌタデから龍志は妖を祓う者だと聞かされていた。
きっと戻ってきたら折檻されるか、殺されるだろうと考えていた。
それに……殺されるを免れる為に、言いたいことを全て一から整理していたというのに、それは見事一瞬にして何処かに吹き飛んでいってしまったのだ。
「……わ、私を、殺さないのですか?」
キネは思ったままを告げたと同時に、龍志は切れ長の目をこれでもかという程に瞠る。
それから一拍も立たぬうちに──隣に立つ頭一つ分低いイヌタデの頭にゴチンとげんこつを落とす。
「キャンッ!」
響く悲鳴は子犬の悲鳴のよう。畳の上でお座りの姿勢を取ってイヌタデは頭を抱えて蹲った。
……まったくお前は。
ため息交じりに言って、龍志はまたもやれやれと首を振る。
「こいつが色々俺のことを吹き込んだみたいだが……お前を殺す気はない。人に害をなすような、悪いことなんてひとつもしていないだろ?」
「は……はぁ」