愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
 龍志は少し自嘲気味に笑った。その軽やかな口調には、彼らしい不器用な優しさが滲む。

「今朝もそんな話をしてましたけど、いったい何をやらかしたんですか……?」

 蘢が怪訝な瞳を向けて問う。

「ああ、そのことか……昨晩、あいつがな」

 昨晩の出来事を顔色一つも変えず、龍志はさらりと話せば、蘢は眉をヒクつかせ更に目を細めた。

「……それ、完全にダメじゃないですか。不潔ですよ。女子(おなご)の心なんて僕にはよくわかりませんが、たぶん……肉欲の権化か、相当な変態だと思われてるのがオチです」
「そうか? まあ、神職者だって人の雄だしな。坊主じゃないから煩悩はあるし、普通に爛れたこと考えるだろ?」

 龍志は鼻で笑い、こう付け加えた。
「お前の〝前の主人〟だって、同じだったろ?」

 蘢はやれやれと首を振ったが、その瞳にはほのかな笑みが浮かんでいた。
 月明かりの下、二人の会話はどこか懐かしく、温かな空気を帯びていた。龍志はふと、空に輝く満月を見上げた。ふと、あの娘の……キネのやんわりとした笑顔を思い出し、胸の奥で静かな決意を新たにする。

「まあ、どんな目で見られようと、俺はあいつを幸せにする。それだけは変わらない」

 そう呟いた龍志の声は、夜の静寂に溶け込み、まるで月光に照らされた約束のように響いた。
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