愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
「おい、起きろ。昼回ってるぞ」
龍志が鬼の肩を揺すると、いびきが止まり、薄く瞳を開く。
「……んだ、龍。何か用事か。おうおう、犬っころもいるじゃねぇか」
細い瞳は山吹のように鮮やかな黄色で、陽光に神秘的に映り、季音は息を飲む。
精悍な顔立ちの青年だった。山の鬼とは雲泥の差の整った容姿で、粋な装いだ。
鉄黒の麻生地に金の風車刺繍の半纏を素肌で纏い、野袴と長足袋を合わせた火消しのような装い。虎毛模様の帯布、金細工の帯飾り、獣の牙と翡翠の首飾りは野性的だが気品がある。
だが、酒臭さが強い。季音は身を竦め、蘢も嫌悪の視線を向ける。
「おん。モフモフが二匹……犬っころお前、暫く見ない間に子でも生んだのか?」
蘢のふわふわな尻尾を掴むと、鬼が身を起こす。蘢の顔が瞬く間に紅潮する。
「ひっ……僕は雄だ! 酒臭い! 触るな、汚らわしい!」
神獣も尾の感覚は同じらしい。季音は戦慄き、肩を震わせる。
「んなの、わぁてるわ。冗談に決まってるだろ。美人な顔に小皺増えるぞ」
朧は粗暴に笑い、蘢の尾を離す。蘢はささっと距離を取り、すぐに尾の手入れを始めた。
季音は蘢の気持ちが痛いほど分かる。だが、気安く声をかけられず、心配そうに視線を向けると、蘢と目が合い、彼は赤く染まった顔でツンとそっぽを向く。
そんな様子を見て、朧は豪快に笑い、龍志に顔を向けた。
「んで、龍。何か用か?」
「ああ、いや。追々用事あるもんでな。その件を伝えるのと一応季音に会わせる為にな」
「ああ、件の狐の嬢ちゃんな。どうも。俺は朧っていう」
朧は季音に会釈し、親しみやすい笑みを浮かべる。
「……はい。季音と申します」
季音は礼儀正しく一礼する。件の狐と知られているらしい。神妙に顔を上げると、朧は笑みを深める。
「俺はもっと高慢ちきな狐の典型を想像したもんだが、本当に龍が言った通りめんこいもんだなぁ……」
朧が顎に手を当て、じっと季音を見つめる。
――龍は龍志の愛称か。「めんこい」は可愛いということ。龍志がそう言ったと分かり、季音の頬に熱が走る。
「こいつ、神職者の癖に手癖も態度も悪いし、嗜虐的な鬼野郎だから気をつけた方がいいぞ。多分泣かれるともっと泣かせたくなるとかそういう容赦無い変態……」
朧が豪快に笑う。鬼が人を鬼と言うのは滑稽だが、尻尾を握る狡猾な態度は確かに思い当たる。
季音が青ざめて龍志を見ると、「そこまで頭はいかれてねぇ」と吐き捨てるのであった。
龍志が鬼の肩を揺すると、いびきが止まり、薄く瞳を開く。
「……んだ、龍。何か用事か。おうおう、犬っころもいるじゃねぇか」
細い瞳は山吹のように鮮やかな黄色で、陽光に神秘的に映り、季音は息を飲む。
精悍な顔立ちの青年だった。山の鬼とは雲泥の差の整った容姿で、粋な装いだ。
鉄黒の麻生地に金の風車刺繍の半纏を素肌で纏い、野袴と長足袋を合わせた火消しのような装い。虎毛模様の帯布、金細工の帯飾り、獣の牙と翡翠の首飾りは野性的だが気品がある。
だが、酒臭さが強い。季音は身を竦め、蘢も嫌悪の視線を向ける。
「おん。モフモフが二匹……犬っころお前、暫く見ない間に子でも生んだのか?」
蘢のふわふわな尻尾を掴むと、鬼が身を起こす。蘢の顔が瞬く間に紅潮する。
「ひっ……僕は雄だ! 酒臭い! 触るな、汚らわしい!」
神獣も尾の感覚は同じらしい。季音は戦慄き、肩を震わせる。
「んなの、わぁてるわ。冗談に決まってるだろ。美人な顔に小皺増えるぞ」
朧は粗暴に笑い、蘢の尾を離す。蘢はささっと距離を取り、すぐに尾の手入れを始めた。
季音は蘢の気持ちが痛いほど分かる。だが、気安く声をかけられず、心配そうに視線を向けると、蘢と目が合い、彼は赤く染まった顔でツンとそっぽを向く。
そんな様子を見て、朧は豪快に笑い、龍志に顔を向けた。
「んで、龍。何か用か?」
「ああ、いや。追々用事あるもんでな。その件を伝えるのと一応季音に会わせる為にな」
「ああ、件の狐の嬢ちゃんな。どうも。俺は朧っていう」
朧は季音に会釈し、親しみやすい笑みを浮かべる。
「……はい。季音と申します」
季音は礼儀正しく一礼する。件の狐と知られているらしい。神妙に顔を上げると、朧は笑みを深める。
「俺はもっと高慢ちきな狐の典型を想像したもんだが、本当に龍が言った通りめんこいもんだなぁ……」
朧が顎に手を当て、じっと季音を見つめる。
――龍は龍志の愛称か。「めんこい」は可愛いということ。龍志がそう言ったと分かり、季音の頬に熱が走る。
「こいつ、神職者の癖に手癖も態度も悪いし、嗜虐的な鬼野郎だから気をつけた方がいいぞ。多分泣かれるともっと泣かせたくなるとかそういう容赦無い変態……」
朧が豪快に笑う。鬼が人を鬼と言うのは滑稽だが、尻尾を握る狡猾な態度は確かに思い当たる。
季音が青ざめて龍志を見ると、「そこまで頭はいかれてねぇ」と吐き捨てるのであった。