愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
そんな非行を繰り返そうが、藍生詠龍の記憶は流れ込むことは止まらず、龍志は何もかもが馬鹿馬鹿しく思えて自棄に至った。
だが、同時に考えたことは、自分が本当に陰陽師、藍生詠龍の生まれ変わりであるなら同じことができるだろうと思えてしまったのだ。
そこで龍志は、手始めに近くの山に住む〝オボロ〟という鬼に決死の覚悟で喧嘩を売ってみた。
記憶の中の通りやっただけだ。
それなのに、いとも簡単に神通力が使えてしまい、輪廻を認めざるを得なかった。
そうして式神の法則通りに己の名を一字与え、鬼に〝朧〟と名を与え、彼を使役した。
更に、時が経つにつれてさらに鮮明になり始めたのは、詠龍の妻、藤香のことだった。
――藤香は詠龍の遣える帝の娘だった。彼女は非常に病弱な娘だった。
薬師さえ匙を投げるほど……薬で治らぬ病は妖や魑魅魍魎の仕業と言われていた時代だ。そうなれば陰陽師の出る幕となる。
そうして詠龍は彼女の側近となった。それから間もなくして、帝に突然命じられたのは彼女との婚姻だった。だが、彼女の病は魑魅魍魎の仕業でもなくただの病。それでは手の施しようもなく、彼女の容態は悪化を辿る一方で、役に立たぬと詠龍はお役御免となり藤香と共に都を出た。
向かった先は詠龍の生家、黒羽の藍生神社だった。
そこに二人で住まうようになり、その冬、藤香は荒神に身体を奪われたのである。
陰陽師は悪霊や妖専門だ。神との対峙など専門外。神の魂を滅することは不可能だった。
よって、過去の自分――詠龍は藤香の身もろとも荒神を封じたのである。
だが、こうも繰り返し過去世を見るのはただごとではない。それも力まで残して……。
そこで、龍志が改めて考え直したことは『己が輪廻した意味』だった。
ふと過ぎった憶測は、詠龍が施した封印が解けること。
そして二年後、龍志は季音に出会ってしまったのである。
雪白の毛並みに藤色の瞳――狐そのものの特徴で容姿こそは違うが、愛らしい顔立ちも可憐な声も愚図な性格も何もかもが記憶の中で見た藤香と一致した。
何よりもそれを確定したのは、過去の自分、詠龍が送った藤の細工の施された簪を彼女が持っていたからだった。
『私、幸せになりたい……もっと詠龍様と一緒に色んな季節の景色を見て歩きたい』
だが、同時に考えたことは、自分が本当に陰陽師、藍生詠龍の生まれ変わりであるなら同じことができるだろうと思えてしまったのだ。
そこで龍志は、手始めに近くの山に住む〝オボロ〟という鬼に決死の覚悟で喧嘩を売ってみた。
記憶の中の通りやっただけだ。
それなのに、いとも簡単に神通力が使えてしまい、輪廻を認めざるを得なかった。
そうして式神の法則通りに己の名を一字与え、鬼に〝朧〟と名を与え、彼を使役した。
更に、時が経つにつれてさらに鮮明になり始めたのは、詠龍の妻、藤香のことだった。
――藤香は詠龍の遣える帝の娘だった。彼女は非常に病弱な娘だった。
薬師さえ匙を投げるほど……薬で治らぬ病は妖や魑魅魍魎の仕業と言われていた時代だ。そうなれば陰陽師の出る幕となる。
そうして詠龍は彼女の側近となった。それから間もなくして、帝に突然命じられたのは彼女との婚姻だった。だが、彼女の病は魑魅魍魎の仕業でもなくただの病。それでは手の施しようもなく、彼女の容態は悪化を辿る一方で、役に立たぬと詠龍はお役御免となり藤香と共に都を出た。
向かった先は詠龍の生家、黒羽の藍生神社だった。
そこに二人で住まうようになり、その冬、藤香は荒神に身体を奪われたのである。
陰陽師は悪霊や妖専門だ。神との対峙など専門外。神の魂を滅することは不可能だった。
よって、過去の自分――詠龍は藤香の身もろとも荒神を封じたのである。
だが、こうも繰り返し過去世を見るのはただごとではない。それも力まで残して……。
そこで、龍志が改めて考え直したことは『己が輪廻した意味』だった。
ふと過ぎった憶測は、詠龍が施した封印が解けること。
そして二年後、龍志は季音に出会ってしまったのである。
雪白の毛並みに藤色の瞳――狐そのものの特徴で容姿こそは違うが、愛らしい顔立ちも可憐な声も愚図な性格も何もかもが記憶の中で見た藤香と一致した。
何よりもそれを確定したのは、過去の自分、詠龍が送った藤の細工の施された簪を彼女が持っていたからだった。
『私、幸せになりたい……もっと詠龍様と一緒に色んな季節の景色を見て歩きたい』