愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
 大怪我を負って床に伏せて眠る季音を見た途端に浮かんでしまったのは、病床に伏せた藤香がいつも言っていた言葉だった。

 いずれ、彼女の内に潜む荒神は表に出てくるに違いない。
 無論、そうなったときにはなんとしてでも討たねばならない――詠龍ができなかったことを成し遂げ、過去の自分を越えるだけのことである。
 そう。だから季音を藤香として、命がけでも彼女を幸せにしようと思ったのだ。果たせなかったことを果たそうと、それがきっと己が輪廻した意味だと――

「龍、おい。大丈夫か。顔色が悪いぞ」

 近くからぼんやりと朧の声が聞こえて龍志ははっと目を(みは)った。長いこと考え込んでしまっていたのだろうか。朧は心底心配そうな顔で龍志を覗き込んでいた。

「本当に大丈夫か?」

 龍志は一つ頷いて立ち上がる。

「顔色なんぞ二日酔いのお前より幾分もマシだろ」

 いつもの調子で軽口を叩き、龍志は蘢と季音の向かった本殿の方をぼんやりと眺めた。

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