愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
 いつもとは打って変わって全く違う。そんな彼の態度や表情にまだ季音は困惑していた。

「おいおいモフモフ二匹でサボりか」

 聞き慣れた低く平らな青年の声に、季音は自然とそちらを見る。そこにいたのは案の定龍志だった。

 ――働かざる者食うべからず。
 そんな言葉が染みついてしまっているせいか、仕置きのように尾を掴まれることを思い浮かべて季音は身を(すく)めた。

「少し休憩を挟んでるだけです。社殿の中は蒸し風呂なもので。倒れかけましたよ」

 間髪入れずに返答したのは蘢だった。
 すると蘢は季音の方を向いて『ですよね?』なんて()くものだから季音は黙って頷いた。

「お前ら随分と仲良くなったな?」
「主殿、僕が季音殿を独占することを今更になって嫉妬してるのですか?」

 呆れたように蘢が言うと、龍志は笑みながらも『馬鹿言え』なんて悪態を垂れた。

 ***

 ――社殿の修繕が終わったのは、それから三日後のことだった。
 修繕程度なので見違えるほどではない。それでも、朱に塗り直された鳥居がわずかに社らしさを取り戻させていた。
 神のいない社を、彼は今日も護る。けれど、一匹で佇む(いぬ)の顔は、以前よりも明るくなったように見えた。

 その翌日から、夏を呼ぶ長い梅雨が始まった。
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