愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
第12話 梅雨の縁側、意地悪な接吻
修繕作業終了から早いこと、一週間以上が過ぎ去った。
梅雨の真っ只中――飽きもせずに雨は連日じとじとと降り続けていた。
稀に晴れ間もあるものだが、それは束の間。どんよりとした暗雲は幾度も現れ同じ天気を繰り返していた。
梅雨も初めて経験する季節。こうも連日空模様が優れないだけで気分が滅入ってしまう……そんな風に思って、季音は雨空を見上げてふぅと一つため息をついた。
それにしても蒸し暑い。いや、蒸し暑すぎるだろう。
まして、麓の方角から蛙がけたたましく鳴く声が昼夜問わずに響いており不快指数ばかり上がる一方だった。
「暑い……」
梅雨到来から、季音はほとんどこれしか言っていない。縁側で仰向けになった彼女は手扇子で自分を仰いで、ごろりと寝返りを打った。
その都度、けたたましく床が鳴るが、今の季音は床の音よりもこの蒸し暑さの方が気になって仕方なかった。
だが、こうして寝返りを打てば、体温が移っていない僅かに冷たい場所に当たるもので……それが心地良くて季音は心地良さに目を細める。
この湿気のせいで夜の寝付きは著しく悪かった。ましてやあの部屋は完全密室だ。湿気は籠もりに籠もって寛ぐ気などまるで起きなかった。
季音は瞼を伏せて度々寝返りを打つ。
すると、徐々に身に纏わり付く不快は薄れ、自然と眠気が迫り来る。そのまま寝落ちする……その瀬戸際だった。
「……おい、こんな場所で寝るな」
低く平らな呆れ声に促されて季音は慌てて瞼を開いた。
唇が触れ合いそうなほどの至近距離だった。そんな間近に龍志の顔がある。季音は『ひゃっ』と、悲鳴にも似た奇声を上げて目を白黒とさせた。
「女子だろ、行儀が悪い。あとな、そこで転がられたら床が鳴るからけたたましくて仕方ない」
吊り上がった黒曜石の瞳をじっとりと細めて彼は言った。
呆れている反面で怒ってはいるのだろう。彼の眉間に皺が寄っていることからそれを悟り、季音の狐耳はへたりと下がる。
「す、すみません……」
平謝りしかできなかった。
だが、そんな様子が面白かったのだろうか。龍志の瞳にはたちまち嗜虐の色が差し込み彼は薄い唇に弧を描いた。
梅雨の真っ只中――飽きもせずに雨は連日じとじとと降り続けていた。
稀に晴れ間もあるものだが、それは束の間。どんよりとした暗雲は幾度も現れ同じ天気を繰り返していた。
梅雨も初めて経験する季節。こうも連日空模様が優れないだけで気分が滅入ってしまう……そんな風に思って、季音は雨空を見上げてふぅと一つため息をついた。
それにしても蒸し暑い。いや、蒸し暑すぎるだろう。
まして、麓の方角から蛙がけたたましく鳴く声が昼夜問わずに響いており不快指数ばかり上がる一方だった。
「暑い……」
梅雨到来から、季音はほとんどこれしか言っていない。縁側で仰向けになった彼女は手扇子で自分を仰いで、ごろりと寝返りを打った。
その都度、けたたましく床が鳴るが、今の季音は床の音よりもこの蒸し暑さの方が気になって仕方なかった。
だが、こうして寝返りを打てば、体温が移っていない僅かに冷たい場所に当たるもので……それが心地良くて季音は心地良さに目を細める。
この湿気のせいで夜の寝付きは著しく悪かった。ましてやあの部屋は完全密室だ。湿気は籠もりに籠もって寛ぐ気などまるで起きなかった。
季音は瞼を伏せて度々寝返りを打つ。
すると、徐々に身に纏わり付く不快は薄れ、自然と眠気が迫り来る。そのまま寝落ちする……その瀬戸際だった。
「……おい、こんな場所で寝るな」
低く平らな呆れ声に促されて季音は慌てて瞼を開いた。
唇が触れ合いそうなほどの至近距離だった。そんな間近に龍志の顔がある。季音は『ひゃっ』と、悲鳴にも似た奇声を上げて目を白黒とさせた。
「女子だろ、行儀が悪い。あとな、そこで転がられたら床が鳴るからけたたましくて仕方ない」
吊り上がった黒曜石の瞳をじっとりと細めて彼は言った。
呆れている反面で怒ってはいるのだろう。彼の眉間に皺が寄っていることからそれを悟り、季音の狐耳はへたりと下がる。
「す、すみません……」
平謝りしかできなかった。
だが、そんな様子が面白かったのだろうか。龍志の瞳にはたちまち嗜虐の色が差し込み彼は薄い唇に弧を描いた。