愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
「暑い暑いって次そこで転がってたら、着物と襦袢(じゅばん)をひん剥いて俺の部屋で寝かせる恥ずかしい仕置きでもするか……お前の部屋より幾分か風通しも良いし、俺の目の保養にもなる」
「……な、な……っ」

 ――なんでそうなるのだろう。鬼だ。
 そんな風に思って季音は唇をあわあわと動かした。

 彼なら本当にやりかねないような気もするが内容がさすがに危うすぎる。冗談だろう……か?
 季音はじっとりと藤色の瞳を細めて彼を射貫いた。

 そんな反応がさぞ面白かったのだろう。龍志はたちまち噴き出すように笑い始めた。
 だが、それだけで『やっぱり冗談だった』と季音が安堵した矢先だった。

「しかし、お前の部屋は風通しが悪いからな。夜も寝づらいようだし俺の部屋で寝るか?」

 今度はあっさりとした口調で龍志は言う。一方、言われた季音はぽかんと口を開けてしまった。

 いつだか似たことを言われただろう。
 それでも、こんなことを言われるのは耐性がない。恥ずかしくて堪らない。季音はさらに顔を赤々と染めた。

「さぁて添い寝だけで済むか……貞操の危機に身も冷えるな?」

 彼の顔は真顔だった。ましてや、淡々とした調子だから今度は本気か嘘かも見抜けない。
 それに、今は組み敷かれて顔を覗き込まれた体勢のまま。季音は目を白黒とさせて首をぶんぶんと横に振る。

「だから、そんなにあからさまな拒否させると、俺もさすがに傷付く」

 わざとらしく妙に落ち込んだ声色で龍志は言った。そこでようやく季音は安堵した。
 やはり冗談だったのだろう。だが、その(おもて)が限りなく真顔に近いのだから、やはりどちらかは分からない。

 しかし、こんな至近距離で、組み敷かれるような姿勢のまま。嫌なほどに鼓動が高鳴ったままだった。
 これじゃあまるで、少し前に蘢の言ったように〝雌として愛されている〟……のかもしれないと思ってしまう。

 けれど、そんなはずはないだろうと季音はすぐに思う。
 何せ、物事をはっきりと言う彼が直接的に言いやしないのだから……。

 そんな考えに至れば、次第に頬に昇った熱は緩やかに下がり始めるもので季音は彼の胸板を押して身を起こし上げた。

「龍志様、神に通じる力をお持ちですよね。一応は神様にお仕えする神職者ですよね……」
「だからなんだ」

 しれっとした口調だった。
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