愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
ただ単純に、蘢の呪符を濡らしたことや破ってしまったことはまだ一度もないそうで、蘢がその事実を知らないからこそ上手く朧に騙されているのではと龍志は推測を語る。
ましてや蘢は生真面目な性格だ。騙されやすいのだろうと、龍志は喉を鳴らして笑った。
そんな他愛もない話をしていれば、あっという間に沢へ辿り着いた。しかし、目的の蛍は一匹たりとも飛んでいない。
「蛍って光る虫ですよね……いませんね」
きょろきょろと季音は辺りを見渡したが、それらしきものが一匹たりとも見当たらない。
片や、龍志は岩の上にどかりと腰掛けて、ふぅと息をつく。
「蛍は光る時間帯もある。一晩中、光って飛んでる訳でもない。静かに待てば時は来る」
そう言って、彼が急に手首を掴むものだから季音は驚いて身を崩してしまった。
尻餅をついた場所は彼の膝の上……きっと痛かっただろうと、季音は慌てて彼を見上げた。
「す、すみませ……」
「重いが大丈夫だ」
重い。言われた言葉に思わずずんと季音は沈んでしまった。
そこまでむちむちと丸く肥えてなんていない……とは思うが、重いのか。
確かに、彼に出会ったきっかけになった簪奪還の木登りで枝木が折れた時のことを思い出せば確かに重いのだろうとは思えてしまう。
「冗談だが」
言われた言葉にたちまち季音は目を点にした。
ひどいだろう。いくらなんでもひどいだろう。
季音は即座に「意地悪!」と、叫びかけた矢先だった。彼はすぐに季音の唇を手で覆い、背後からきつく季音を抱きしめた。
「ほら飛び始めた……向こう側、見てみろ」
耳元を擽る彼の囁きに思わず背筋がぞくりとしてしまった。
至近距離だからだろうか。極めて彼は普段通りなのだろうが、囁かれるとまた違う。煩いほどに心臓が高鳴った。
それでも、彼の言われた通りに遠くを眺望すると、闇の向こうに黄緑の光がぽつりぽつりと浮かしては消える。
やがてそれは、ひとつふたつと増え始めて、辺り一面に黄緑の光が広がった。
それからようやくして、彼は季音の口元から手を離す。
「思ったよりすごいな」
ぽつりとそんな声が耳の真上から落ちてきた。
それから間髪入れずに感嘆の吐息さえも耳を擽り、季音は顔を赤々と染めて居心地悪そうに身じろぎした途端だった。それに感づいたのか――彼は後ろから抱きしめる手の力を殊更に強めた。
ましてや蘢は生真面目な性格だ。騙されやすいのだろうと、龍志は喉を鳴らして笑った。
そんな他愛もない話をしていれば、あっという間に沢へ辿り着いた。しかし、目的の蛍は一匹たりとも飛んでいない。
「蛍って光る虫ですよね……いませんね」
きょろきょろと季音は辺りを見渡したが、それらしきものが一匹たりとも見当たらない。
片や、龍志は岩の上にどかりと腰掛けて、ふぅと息をつく。
「蛍は光る時間帯もある。一晩中、光って飛んでる訳でもない。静かに待てば時は来る」
そう言って、彼が急に手首を掴むものだから季音は驚いて身を崩してしまった。
尻餅をついた場所は彼の膝の上……きっと痛かっただろうと、季音は慌てて彼を見上げた。
「す、すみませ……」
「重いが大丈夫だ」
重い。言われた言葉に思わずずんと季音は沈んでしまった。
そこまでむちむちと丸く肥えてなんていない……とは思うが、重いのか。
確かに、彼に出会ったきっかけになった簪奪還の木登りで枝木が折れた時のことを思い出せば確かに重いのだろうとは思えてしまう。
「冗談だが」
言われた言葉にたちまち季音は目を点にした。
ひどいだろう。いくらなんでもひどいだろう。
季音は即座に「意地悪!」と、叫びかけた矢先だった。彼はすぐに季音の唇を手で覆い、背後からきつく季音を抱きしめた。
「ほら飛び始めた……向こう側、見てみろ」
耳元を擽る彼の囁きに思わず背筋がぞくりとしてしまった。
至近距離だからだろうか。極めて彼は普段通りなのだろうが、囁かれるとまた違う。煩いほどに心臓が高鳴った。
それでも、彼の言われた通りに遠くを眺望すると、闇の向こうに黄緑の光がぽつりぽつりと浮かしては消える。
やがてそれは、ひとつふたつと増え始めて、辺り一面に黄緑の光が広がった。
それからようやくして、彼は季音の口元から手を離す。
「思ったよりすごいな」
ぽつりとそんな声が耳の真上から落ちてきた。
それから間髪入れずに感嘆の吐息さえも耳を擽り、季音は顔を赤々と染めて居心地悪そうに身じろぎした途端だった。それに感づいたのか――彼は後ろから抱きしめる手の力を殊更に強めた。