愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
 ――そりゃそうだよな。なんて、言って。彼が季音を抱き直した矢先だった。

 間髪入れずに、彼が自分の肩を掴んだ。
 そう思った時には地面に投げ出すように組み敷かれて、季音の身を抱き寄せた彼は身を縮めて覆い被さる。

 一拍も立たぬうち、自分たちが先程座っていた岩に金属質なものが当たる音が響く。

 何が起きたのかなんて理解できなかった。
 だが、自分の顔の横に転がり落ちたものを目にした途端に肝が冷える。

 そう、それは明らかに見覚えのある刀だったのだから……。

「おキネ。これはどういうことだ。そこにいるのは分かってる。お前を血眼になって探り助け出す機会を探っていたが……」

 響き渡る声は少し掠れた少女のもの。
 明らかに聞き覚えのある声だ。
 だが、その声色は聞いたこともないほどに険しい怒気を含んでいて……。

「惚けてるんじゃねぇぞ間抜けが! 生きる場所が違うことを(わきま)えろ!」

 咆哮(ほうこう)が如く叫ぶ少女の声は蛍火を一瞬にして消し去った。

 そこに広がるのは静謐な夜。
 新月の生み出す、深淵の世界だった。
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