愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
「馬鹿なことを()くな! お前は唯一無二のダチに違いねぇ。お前の居場所は分かってた。命をかけてでも助けに来たに決まってるだろ!」

 その言葉に季音ははっと口元を覆う。
 思いがけもしなかった。きっと自分のことは諦めたに違いないと少なからず思っていたのだから。

 そこまで思ってくれたことは素直に嬉しい。けれど、彼女が今まさに攻撃対象に睨み付けている龍志だって季音からすれば恩人に違いない。

 このままではまずいだろう。
 あまりにも誤解が深すぎる無益な争いになってしまう……だが、全ては自分が蒔いた種だからこそ責任が重い。

「おタキちゃん! この人も、私の恩人よ! 崖から転落して大怪我を負って動けないでいたところを助けてくれたの。私は保護されているだけよ」

 ありのままの事実を季音が述べるが、タキはすぐに首を横に振った。

「信じられるか! それは人の雄だ。お前が妖気も扱えないことを良いことに慰みか見世物にするのは目に見えて分かってる。騙されるな!」

 ――そんなことはない。と、季音が反論しようとした矢先だった。

「話には聞いてたが、お前……本当に狸らしくないな。いくらなんでも血の気が多すぎるだろ」

 呆れた調子で龍志は言う。
 対してタキは『人にしては良い褒め言葉を言うじゃねぇか』と鼻を鳴らして返した。

「別に褒めた訳ではないが……頭は切れるだろうし、刀を飛ばす妖術もなかなかのものだ。だが、お前は少しばかり人にしちゃいけないことをやらかしたのは事実だ」

 そう言って龍志は白銀の糸の防壁を瞬時に裁ち切り、タキの前へと歩み寄った。

「〝人に害をなす妖〟にはきつい仕置きが必要だ。お前はどうやら話を聞きそうにないからな。お前、俺を〝殺す気〟で来たんだろ。闘争を望むようだからそれに乗ってやろう」
「人の割に話が分かるじゃねぇか」

 タキは吊り上がった大きな瞳をさらに鋭くして、龍志を睨み付ける。

「龍志様!」
 ダメだと季音は叫ぶ。

 だが、彼は振り返ることなく手だけを向けた。すると瞬く間に、足元から白銀の縄が蛇のように季音の身に絡みつき始めた。

 別に痛くもないが、こそばゆくて仕方ない。やがて、這い寄る縄は両手首を拘束すると蠢きが止まった。

「おい……雌の獣を縄で縛り付けるって〝神の力〟の使い方は随分悪趣味だな」
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