愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
タキは眉をぴくりと動かし、唇を歪めて吐き捨てるように言った。その声には、心底軽蔑したような冷たさが滲んでいた。
「仕方ないだろ」
龍志はそう呟き、季音をちらりと一瞥した。半眼で彼女を見つめるその視線には、どこか苛立ちと諦めが混じっているようだった。
「これはただの拘束型の結界だ。……まぁ、確かに狐の雌ってだけで、思ったより淫靡な絵面になっちまったがな」
彼は肩をすくめ、言葉を続けた。
「無力な妖が無闇に飛び込めば、間違いなく死ぬ。安全策を取ったまでだ」
その言葉が終わらないうちだった。タキの動きは迅く、鋭い刃が龍志の喉元に突きつけられる。刀身が薄く光を反射し、張り詰めた空気を切り裂くような静寂が辺りを支配した。
「それが最期の言葉か。他に言い残すことはないか?」
今までに見せたこともないほどの凄みだった。牙を剥き出して、瞳孔を絞り上げたタキの瞳はあまりに冷たいことは暗闇の中でもよく分かった。
争ってはいけない――それを口にしたいが、言葉は声が出ない。きっと、それもこの拘束のせいだろうか。季音はもどかしさに唇を噛みしめた。
「馬鹿を言え、お前は俺の話を聞かなかったか? これから俺がやるのは〝人に害をなした妖に一方的に仕置きをする〟だけだ」
「阿呆が。ひ弱な人如き八つ裂きにしてやる」
タキは一歩踏み込み、刀を構え直した。その刃は冷たく光り、今まさに龍志に斬りかかろうとする。だが、龍志は動じず、懐から二枚の呪符を素早く取り出すと、早口で荘厳な言の葉を詠い上げる。
――刹那、周囲に朱色の煙がふわりと漂い、タキと龍志の間に割り込むように、二匹の式神がゆらりと姿を現した。
その姿は幽玄で、まるで空気を震わせるような静かな威圧感を放っていた。
「は?」
煙が晴れた途端に、タキは気が抜けた声を上げる。
逆毛立った毛髪も尾も一瞬にして萎み、タキは一歩二歩と後退りをしたのである。
「どうした?」
「――っ! どうしたじゃねぇだろ。汚ねぇだろお前! 鬼もそうだが、神獣なんぞ狸の妖如きが叶う訳ねぇだろ馬鹿か! まず三対一っておかしいだろ!」
「いやいや。お前は〝死ぬ気〟と言っただろう? 俺を〝殺す気〟と言っただろう? お前が本気を出すなら、俺も神通力を全開で使うし、式神を二体呼び寄せただけだが……それに汚いもクソもあるか?」
「仕方ないだろ」
龍志はそう呟き、季音をちらりと一瞥した。半眼で彼女を見つめるその視線には、どこか苛立ちと諦めが混じっているようだった。
「これはただの拘束型の結界だ。……まぁ、確かに狐の雌ってだけで、思ったより淫靡な絵面になっちまったがな」
彼は肩をすくめ、言葉を続けた。
「無力な妖が無闇に飛び込めば、間違いなく死ぬ。安全策を取ったまでだ」
その言葉が終わらないうちだった。タキの動きは迅く、鋭い刃が龍志の喉元に突きつけられる。刀身が薄く光を反射し、張り詰めた空気を切り裂くような静寂が辺りを支配した。
「それが最期の言葉か。他に言い残すことはないか?」
今までに見せたこともないほどの凄みだった。牙を剥き出して、瞳孔を絞り上げたタキの瞳はあまりに冷たいことは暗闇の中でもよく分かった。
争ってはいけない――それを口にしたいが、言葉は声が出ない。きっと、それもこの拘束のせいだろうか。季音はもどかしさに唇を噛みしめた。
「馬鹿を言え、お前は俺の話を聞かなかったか? これから俺がやるのは〝人に害をなした妖に一方的に仕置きをする〟だけだ」
「阿呆が。ひ弱な人如き八つ裂きにしてやる」
タキは一歩踏み込み、刀を構え直した。その刃は冷たく光り、今まさに龍志に斬りかかろうとする。だが、龍志は動じず、懐から二枚の呪符を素早く取り出すと、早口で荘厳な言の葉を詠い上げる。
――刹那、周囲に朱色の煙がふわりと漂い、タキと龍志の間に割り込むように、二匹の式神がゆらりと姿を現した。
その姿は幽玄で、まるで空気を震わせるような静かな威圧感を放っていた。
「は?」
煙が晴れた途端に、タキは気が抜けた声を上げる。
逆毛立った毛髪も尾も一瞬にして萎み、タキは一歩二歩と後退りをしたのである。
「どうした?」
「――っ! どうしたじゃねぇだろ。汚ねぇだろお前! 鬼もそうだが、神獣なんぞ狸の妖如きが叶う訳ねぇだろ馬鹿か! まず三対一っておかしいだろ!」
「いやいや。お前は〝死ぬ気〟と言っただろう? 俺を〝殺す気〟と言っただろう? お前が本気を出すなら、俺も神通力を全開で使うし、式神を二体呼び寄せただけだが……それに汚いもクソもあるか?」