愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
参章
第16話 朱塗りの門、四季の箱庭
ふと我に返ると、季音は朱塗りの門の前に立っていた。
その門はどっしりとした佇まいで、まるで古の社寺のような荘厳さがあった。
どこかの神社か寺だろうか。けれど、こんな場所、知らない。
季音は眉を寄せ、開かれた門に目を向けたが、こぼれんばかりの眩しい光が向こう側を隠していて、何も見えなかった。
門の向こうから、柔らかで麗らかな風がそっと流れ込んでくる。
その風に乗り、きらきらと陽光を反射する何かの欠片が、ふわふわと舞い降りてきた。
――なんだろう?
季音は足元に視線を落とした。そこには、薄紅の桜の花弁が、まるで絨毯のように一面に散らばっていた。
今は梅雨の季節だ。桜なんて、とっくに葉桜になっているはず。おかしいな、と思ったその瞬間、季音の脳裏にさっきの出来事が一気に蘇ってきた。
……使えるはずもない妖術を使ったのだ。
そうして自分はそのまま意識を手放した。まさか自分は死んだとでも言うのだろうか。季節を逆巻いたような非現実的なことが起きているのだから。
畏怖を覚えた季音は立派に佇む朱塗りの門から一歩二歩と後退りした――その時だった。
『何をぐずぐずとしておるのじゃ。入ってこい』
あの時と同じ艶やかな声が脳裏に響き渡ったのだ。
『死んだとでも思っておるのじゃろう? 阿呆、生きとるわ。そら、さっさと来い』
続けて言われた後だった。
季音の足は導かれるように勝手に歩み出し、輝かしい光を放つ門の中へと踏み入った。
眩しくてたまらない。だが、門の中に入ったと同時に光は弾けた。
やがて、目の前に広がった光景は、息を飲むほど美しい庭園だった。
門の脇では、枝垂れ桜が暖かな陽光に照らされて満開に咲き誇っている。だが、視線を遠くにやった瞬間、季音は新たな違和感を鋭く感じ取った。
庭園の奥に朱塗りの橋が見えるが、その近くには燃えるような紅葉が色づき、さらには椿らしき花木まで咲いている。
ありえない光景だ。まるで春夏秋冬を無造作にごちゃ混ぜにしたような、美しくも不気味な庭だった。
『死んでいない』と、どこからか響いた声に囁かれていた。
それならば、これはいったい何なんだろう? 極楽浄土でもない限り、こんな場所をどう説明すればいいのか、季音には見当もつかなかった。
その門はどっしりとした佇まいで、まるで古の社寺のような荘厳さがあった。
どこかの神社か寺だろうか。けれど、こんな場所、知らない。
季音は眉を寄せ、開かれた門に目を向けたが、こぼれんばかりの眩しい光が向こう側を隠していて、何も見えなかった。
門の向こうから、柔らかで麗らかな風がそっと流れ込んでくる。
その風に乗り、きらきらと陽光を反射する何かの欠片が、ふわふわと舞い降りてきた。
――なんだろう?
季音は足元に視線を落とした。そこには、薄紅の桜の花弁が、まるで絨毯のように一面に散らばっていた。
今は梅雨の季節だ。桜なんて、とっくに葉桜になっているはず。おかしいな、と思ったその瞬間、季音の脳裏にさっきの出来事が一気に蘇ってきた。
……使えるはずもない妖術を使ったのだ。
そうして自分はそのまま意識を手放した。まさか自分は死んだとでも言うのだろうか。季節を逆巻いたような非現実的なことが起きているのだから。
畏怖を覚えた季音は立派に佇む朱塗りの門から一歩二歩と後退りした――その時だった。
『何をぐずぐずとしておるのじゃ。入ってこい』
あの時と同じ艶やかな声が脳裏に響き渡ったのだ。
『死んだとでも思っておるのじゃろう? 阿呆、生きとるわ。そら、さっさと来い』
続けて言われた後だった。
季音の足は導かれるように勝手に歩み出し、輝かしい光を放つ門の中へと踏み入った。
眩しくてたまらない。だが、門の中に入ったと同時に光は弾けた。
やがて、目の前に広がった光景は、息を飲むほど美しい庭園だった。
門の脇では、枝垂れ桜が暖かな陽光に照らされて満開に咲き誇っている。だが、視線を遠くにやった瞬間、季音は新たな違和感を鋭く感じ取った。
庭園の奥に朱塗りの橋が見えるが、その近くには燃えるような紅葉が色づき、さらには椿らしき花木まで咲いている。
ありえない光景だ。まるで春夏秋冬を無造作にごちゃ混ぜにしたような、美しくも不気味な庭だった。
『死んでいない』と、どこからか響いた声に囁かれていた。
それならば、これはいったい何なんだろう? 極楽浄土でもない限り、こんな場所をどう説明すればいいのか、季音には見当もつかなかった。