愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
淡い紫――藤の瞳は同じだが、丸く垂れ下がった自分の目の輪郭とは違って、彼女の目は妖艶に吊り上がっていた。それに髪は結っておらず、腰までつきそうなほど長い雪白の毛髪はふわふわと生暖かい風に靡いている。
背丈も見てくれも同じだが、顔立ちだけが違う。当然のように、不気味に思えてしまった。
そんな彼女は、四阿の柱に背を預けて煙管を吸っていた。
「何じゃ。死人でも見る形相で……」
言葉と同時に煙を吐き出して、彼女は季音をじっと射貫いた。
「……貴方は誰? 私は、どこにいるの」
震えながら季音は尋ねる。すると、彼女は藤色の瞳を丸く瞠った後、豪快かつ高らかな笑い声を上げた。
「ああ、本当に愚図じゃの……分からぬのか。あんたは妾。妾はあんたじゃ」
彼女は季音に向かって煙管を突き立て、緩やかな弧を描く。
「……私、なの?」
「愚図は何もかも忘れたのか。そうじゃ。妾はあんたじゃ。もう一人の自分とでも思え。別に何もせぬ。死んでもおらん。怯えるでない」
淡々と告げると、彼女は再び煙管に口付けて深く煙を吸い込む。
『もう一人の自分』は納得せざるを得ないだろう。
何せ、顔立ちが違う以外の容姿全てが一致するのだから。だが、自分のはずがないだろう。いまだ信じ難い部分はあるが龍志の告白で自分は元が人だと理解しているのだから。
ならば彼女は何だ――結び付く答えは、“自分が狐の姿である理由”としか言いようもない。季音は眉根を寄せた途端、以前龍志とした他愛のない会話から知ったある存在をふと思い出した。
「貴女、まさか私の守護霊……?」
――そうに違いない。
確信を得て季音が尋ねたと同時、彼女はごほごほと煙に噎せ始めた。だが、取り乱したのも一瞬だった。彼女はすぐに、季音の方を涙に濡れた瞳で睨んだ……かと思えば、薄紅の唇を開いて豪快かつ高らかに笑い始めた。
「そうさ、そう思え」
彼女は肩をぷるぷると震わせながら答えた。思い当たることを言っただけだ。何がそんなに可笑しいのかは分からない。
背丈も見てくれも同じだが、顔立ちだけが違う。当然のように、不気味に思えてしまった。
そんな彼女は、四阿の柱に背を預けて煙管を吸っていた。
「何じゃ。死人でも見る形相で……」
言葉と同時に煙を吐き出して、彼女は季音をじっと射貫いた。
「……貴方は誰? 私は、どこにいるの」
震えながら季音は尋ねる。すると、彼女は藤色の瞳を丸く瞠った後、豪快かつ高らかな笑い声を上げた。
「ああ、本当に愚図じゃの……分からぬのか。あんたは妾。妾はあんたじゃ」
彼女は季音に向かって煙管を突き立て、緩やかな弧を描く。
「……私、なの?」
「愚図は何もかも忘れたのか。そうじゃ。妾はあんたじゃ。もう一人の自分とでも思え。別に何もせぬ。死んでもおらん。怯えるでない」
淡々と告げると、彼女は再び煙管に口付けて深く煙を吸い込む。
『もう一人の自分』は納得せざるを得ないだろう。
何せ、顔立ちが違う以外の容姿全てが一致するのだから。だが、自分のはずがないだろう。いまだ信じ難い部分はあるが龍志の告白で自分は元が人だと理解しているのだから。
ならば彼女は何だ――結び付く答えは、“自分が狐の姿である理由”としか言いようもない。季音は眉根を寄せた途端、以前龍志とした他愛のない会話から知ったある存在をふと思い出した。
「貴女、まさか私の守護霊……?」
――そうに違いない。
確信を得て季音が尋ねたと同時、彼女はごほごほと煙に噎せ始めた。だが、取り乱したのも一瞬だった。彼女はすぐに、季音の方を涙に濡れた瞳で睨んだ……かと思えば、薄紅の唇を開いて豪快かつ高らかに笑い始めた。
「そうさ、そう思え」
彼女は肩をぷるぷると震わせながら答えた。思い当たることを言っただけだ。何がそんなに可笑しいのかは分からない。