愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
だが、瞳を細めて笑む穏やかな顔に絆されて畏怖の心は薄れ始めた。次第に、馬鹿にされているような気さえしてきて無性に腹も立ってくる。季音は思わずむっとして、目を細めて彼女を睨む。すると、彼女は『悪い悪い』と言って、季音に向き合った。
「そいで、ここがどこかって質問だね。ここはね、あんたのここにある箱庭じゃ」
彼女は人差し指で、季音の左胸の上部を突く。
「……心?」
「そう。妾は、ここに住んでいるのさ。ここは妾の創り出した完璧な庭。妾はここであんたをいつも見守っている。美しいじゃろう? 気に入ったか?」
「……美しいとは思うわ。普通ならありえもしない光景が広がっているのだから」
思ったままを告げると、彼女は恐ろしいほど妖艶に笑む。
背筋が凍りつくほどの美しさだった。その笑顔を真正面から見て、たちまち脳裏に鋭く突き抜けたのは潜在的な懐かしさだった。
この感覚は龍志に初めて会った時や退廃した社を見た時と同じだ。
きっと会ったことがあるのだろう。それを悟り、季音はそっと瞳を伏せる。
記憶の水面に手を入れて、底に沈む沈殿物に手を伸ばす。深く深くその深層へ――もう少しで掴めそうな気がした。だが、痛烈に拒むように手は届きもしない。
季音は『だめ』と一つため息をついて、瞼を持ち上げた。
彼女は季音には目もくれず、煙管をふかして庭を静かに眺めていた。
その横顔はどこか物憂げで寂しそうにさえ映り、季音はなぜだか少し胸が軋んだ。
「そいで、ここがどこかって質問だね。ここはね、あんたのここにある箱庭じゃ」
彼女は人差し指で、季音の左胸の上部を突く。
「……心?」
「そう。妾は、ここに住んでいるのさ。ここは妾の創り出した完璧な庭。妾はここであんたをいつも見守っている。美しいじゃろう? 気に入ったか?」
「……美しいとは思うわ。普通ならありえもしない光景が広がっているのだから」
思ったままを告げると、彼女は恐ろしいほど妖艶に笑む。
背筋が凍りつくほどの美しさだった。その笑顔を真正面から見て、たちまち脳裏に鋭く突き抜けたのは潜在的な懐かしさだった。
この感覚は龍志に初めて会った時や退廃した社を見た時と同じだ。
きっと会ったことがあるのだろう。それを悟り、季音はそっと瞳を伏せる。
記憶の水面に手を入れて、底に沈む沈殿物に手を伸ばす。深く深くその深層へ――もう少しで掴めそうな気がした。だが、痛烈に拒むように手は届きもしない。
季音は『だめ』と一つため息をついて、瞼を持ち上げた。
彼女は季音には目もくれず、煙管をふかして庭を静かに眺めていた。
その横顔はどこか物憂げで寂しそうにさえ映り、季音はなぜだか少し胸が軋んだ。