愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
「敗者だし」
しれっとした調子で龍志は切り返す。間違いなく反応を楽しんでいるのだろう。タキが悔しさに真っ赤になってわなわなと震え出すものだから、なんだか少しいたたまれなくなってしまった。
きっと、格好の弄り要因の標的として今、彼はタキを見ているに違いない。
鋭い目も薄い唇も今まさに嗜虐心が滲み出ているのだから。それはもう、彼の背後に変な気迫さえ可視化できてしまいそうなほどに……。散々、尻尾を引っ張られているのだから季音はそれが『追い詰めて面白がってる顔』だとよく分かる。
「お前ほんとに腹立つ、根性悪、意地悪、嫌い!」
余程悔しくて泣きそうなのだろう。タキの声は弱々しく震え、頬は真っ赤に染まっていた。そんな様子を初めて見たものだから、季音も驚いてしまったが、堪らなくいたたまれなくなる。大事な友として、目をつむることはできない――そんな風に思って、季音が合間に入ろうと思った途端だった。
「お前は季音の友だし別に式の件は強制しない。素直にお前の妖術の筋の良さは認めるし、狸らしからぬ勇敢さや気高さ、心意気には尊敬する。ただな――負けを認めて社に住まう以上は蘢の言うことだけは絶対に聞け。それだけは約束しろ」
龍志はタキの肩を軽く叩き、真剣な口調で言った。さすがにタキに対して少し申し訳ないと思ったのだろうか。だが、その口ぶりは弁解や説教じみたものではなく、ごく自然なもの。それが、季音にはかえって意外だった。
「境内の美化は頼んだぞ」
龍志は立てかけてあった竹箒をタキに手渡すと、ぼろ屋の方へ歩き出す。そうして、タキは無言のまま、すぐに社の脇から真剣に掃き掃除を始めた。
「正式な居候が増えて喧しくなりますね」
ぽつりと蘢が呟いたその瞬間だった。
「それじゃあ歓迎会と名ばかりの宴会でもするか? 酒が飲めるな……これは」
朧はタキをちらりと見て、山吹色の瞳をぱっと輝かせた。
「朧殿は毎日飲んだくれてるじゃないですか……」
「それとこれはまた別だろ」
「同じじゃないですか。馬鹿なんですか貴方……」
蘢は半眼で朧を睨み上げた。片や、朧はぱちりと手を合わせて、蘢に頭を下げている。
「頼むよ。俺、狸の嬢ちゃんに謝りたい。俺あの子を傷ものにしちまったんだよ」
しれっとした調子で龍志は切り返す。間違いなく反応を楽しんでいるのだろう。タキが悔しさに真っ赤になってわなわなと震え出すものだから、なんだか少しいたたまれなくなってしまった。
きっと、格好の弄り要因の標的として今、彼はタキを見ているに違いない。
鋭い目も薄い唇も今まさに嗜虐心が滲み出ているのだから。それはもう、彼の背後に変な気迫さえ可視化できてしまいそうなほどに……。散々、尻尾を引っ張られているのだから季音はそれが『追い詰めて面白がってる顔』だとよく分かる。
「お前ほんとに腹立つ、根性悪、意地悪、嫌い!」
余程悔しくて泣きそうなのだろう。タキの声は弱々しく震え、頬は真っ赤に染まっていた。そんな様子を初めて見たものだから、季音も驚いてしまったが、堪らなくいたたまれなくなる。大事な友として、目をつむることはできない――そんな風に思って、季音が合間に入ろうと思った途端だった。
「お前は季音の友だし別に式の件は強制しない。素直にお前の妖術の筋の良さは認めるし、狸らしからぬ勇敢さや気高さ、心意気には尊敬する。ただな――負けを認めて社に住まう以上は蘢の言うことだけは絶対に聞け。それだけは約束しろ」
龍志はタキの肩を軽く叩き、真剣な口調で言った。さすがにタキに対して少し申し訳ないと思ったのだろうか。だが、その口ぶりは弁解や説教じみたものではなく、ごく自然なもの。それが、季音にはかえって意外だった。
「境内の美化は頼んだぞ」
龍志は立てかけてあった竹箒をタキに手渡すと、ぼろ屋の方へ歩き出す。そうして、タキは無言のまま、すぐに社の脇から真剣に掃き掃除を始めた。
「正式な居候が増えて喧しくなりますね」
ぽつりと蘢が呟いたその瞬間だった。
「それじゃあ歓迎会と名ばかりの宴会でもするか? 酒が飲めるな……これは」
朧はタキをちらりと見て、山吹色の瞳をぱっと輝かせた。
「朧殿は毎日飲んだくれてるじゃないですか……」
「それとこれはまた別だろ」
「同じじゃないですか。馬鹿なんですか貴方……」
蘢は半眼で朧を睨み上げた。片や、朧はぱちりと手を合わせて、蘢に頭を下げている。
「頼むよ。俺、狸の嬢ちゃんに謝りたい。俺あの子を傷ものにしちまったんだよ」