愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
その言葉に、蘢はたちまち顔を真っ赤に染め朧を睨みつけた。季音もまた、頬を紅潮させて同じ気持ちだった。
……思えば、あれからというものタキは朧と社の中で生活している。
種族は違えど、異性同士だ。龍志との再戦のことばかり気にかけて、まるで頭から抜けていたけど――まさか、そんなことが? その考えが頭をよぎった瞬間、季音は言葉を失い、軽蔑の念が湧き上がった。
酔った勢いで手を出したのだろうか? いくらなんでも最低すぎる。蘢も同じ思いだったらしく、冷ややかな目で朧を睨みつけた。
すると、朧は自分の頬を指でつぅとなぞり、「顔の傷だ」と呟き、山吹色の瞳をじっとりと細めた。
――そういうことか。紛らわしい。
妙に安堵してしまい、季音と蘢は顔を合わせて一緒にため息をつく。
「確かに俺も噛まれたのは結構痛かったし傷にはなった。とは言え、相手は女子だ。しかも顔に傷つけた。しかしなぁ、あの娘はじゃじゃ馬な上に気高いもので謝罪なんぞ言う隙もない。話しかけても、えらい冷たい目で見られる。だから改めて話す席が欲しいと思う」
そう言って、朧は社の石段を掃くタキを物憂げに眺めた。
「朧殿の場合、酔っ払いに絡まれて鬱陶しいと思われてるのがオチじゃないですかね」
「馬鹿言うな。ならば、お前はどうだ?」
朧に問われて蘢は目を細めてタキの方を見る。
「話しかけもしませんね。僕も話さないですし。だって別に話すこともないですし」
「悪かった。俺が悪かった。お前は極度の人見知りだった……」
そんな風に言って、朧は蘢のふわふわの髪をわしゃわしゃと撫で回す。それに腹が立ったのだろう、蘢はあからさまに煙たそうな顔をして舌打ちしていた。
確かに、タキの気性を考えれば、そういう反応になるのも納得できる。それなりに長い付き合いだからこそ、彼女のことはいくらか分かっていた。
朧の言う通り、彼女はじゃじゃ馬だ。それでいて、妖としての気高さも持ち合わせている。
そんな彼女が、山と群れを捨てたのだ。それも、たった一匹の愚かな狐のために。決死の覚悟で挑んだのに生かされ、しかも五度も龍志に挑んで負け、式神の話まで持ち出されたのだから、複雑な心境に違いない。
(そもそも、こうなってしまったのは、私が蒔いた種だわ)
……思えば、あれからというものタキは朧と社の中で生活している。
種族は違えど、異性同士だ。龍志との再戦のことばかり気にかけて、まるで頭から抜けていたけど――まさか、そんなことが? その考えが頭をよぎった瞬間、季音は言葉を失い、軽蔑の念が湧き上がった。
酔った勢いで手を出したのだろうか? いくらなんでも最低すぎる。蘢も同じ思いだったらしく、冷ややかな目で朧を睨みつけた。
すると、朧は自分の頬を指でつぅとなぞり、「顔の傷だ」と呟き、山吹色の瞳をじっとりと細めた。
――そういうことか。紛らわしい。
妙に安堵してしまい、季音と蘢は顔を合わせて一緒にため息をつく。
「確かに俺も噛まれたのは結構痛かったし傷にはなった。とは言え、相手は女子だ。しかも顔に傷つけた。しかしなぁ、あの娘はじゃじゃ馬な上に気高いもので謝罪なんぞ言う隙もない。話しかけても、えらい冷たい目で見られる。だから改めて話す席が欲しいと思う」
そう言って、朧は社の石段を掃くタキを物憂げに眺めた。
「朧殿の場合、酔っ払いに絡まれて鬱陶しいと思われてるのがオチじゃないですかね」
「馬鹿言うな。ならば、お前はどうだ?」
朧に問われて蘢は目を細めてタキの方を見る。
「話しかけもしませんね。僕も話さないですし。だって別に話すこともないですし」
「悪かった。俺が悪かった。お前は極度の人見知りだった……」
そんな風に言って、朧は蘢のふわふわの髪をわしゃわしゃと撫で回す。それに腹が立ったのだろう、蘢はあからさまに煙たそうな顔をして舌打ちしていた。
確かに、タキの気性を考えれば、そういう反応になるのも納得できる。それなりに長い付き合いだからこそ、彼女のことはいくらか分かっていた。
朧の言う通り、彼女はじゃじゃ馬だ。それでいて、妖としての気高さも持ち合わせている。
そんな彼女が、山と群れを捨てたのだ。それも、たった一匹の愚かな狐のために。決死の覚悟で挑んだのに生かされ、しかも五度も龍志に挑んで負け、式神の話まで持ち出されたのだから、複雑な心境に違いない。
(そもそも、こうなってしまったのは、私が蒔いた種だわ)