愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
 その罪は自分がしっかり償わなければならない。意を決めて、季音は朧を見上げた。

「朧様。私、宴会の件をおタキちゃんと龍志様に話してみます。そもそもは私の責任ですので。それに、きっと……おタキちゃん複雑な気持ちだと思います。だから私、責任を必ず取ります」

 それをきっちりと伝えると、朧は穏やかな(おもて)で頷いた。

「話してくれることは、ありがたい――だけどな」

 朧はそこまで言うと、言葉を少し詰まらせた。隣にいた蘢は無言の圧力を込めて肘で朧の脇腹を突く。朧はやれやれと首を振り、ひとつ息をつくと、季音に改めて向き合った。

「……狐の嬢ちゃんが責任だとか、そんなに気負わなくていいと思うぜ? 確かに、あんたには気になることだろう。だがな、狸の嬢ちゃんは最初から〝全てを投げ出す〟覚悟を決めてた。それがどういう意味か、分かるよな? だから、あんたが自分の責任だと気にしすぎると、あの娘まで気負っちまう。親友なんだろ? その辺は分かってやってくれよ」

 朧の言葉に季音ははっと目を見開く。

『自分が悪い』とそこだけしか見ていなかった。

 だがタキの本当の気持ちはどうなのだろう。
 群れと山を捨てる、命さえ投げ出す覚悟――そこまでして、自分を大切に思ってくれた何よりの証拠。自分がすべき責任は、ただ深謝して許しを請うことではない。感謝し礼を言うべきだ。それを理解した季音はすぐに朧に向き合った。

「ありがとう朧様。私、大切なことに気づけました」

 彼に深々と頭を下げた後、季音は真面目に掃き掃除をしているタキの方へと小走りで向かっていった。
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