愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
 噛みしめるように、心底愛おしむように言うと、「煽ると、これからもっと恥ずかしいことをさせて虐めたくなる」と困ったように笑った。その表情に、季音も思わず微笑みを返す。

 ――その瞬間、過去の詠龍と今の龍志が重なり、自分をただ一人の存在として見つめていることが分かった。たとえ妖であっても、彼にとって愛おしい存在なのだ。その確信が、季音の心を温かく満たした。

 やがて、龍志の指が浴衣(ゆかた)の裾をそっと引き、素肌に触れた。まるで壊れ物を扱うような、慎重で優しい指先だった。敏感になった肌にそっと触れられ、季音の身体は小さく震え、胸の奥が熱く疼く。

「んっ……あっ」

 甘い息がこぼれると、龍志はそれを絡め取るように唇を重ねる。甘く柔らかな接吻(くちづけ)は、二人の心を溶かし合うようだった。

 燭の頼りない光が畳に揺れる影を落とし、二人だけの静かな世界を包み込む。
 やがて、二人は互いの息遣いだけが響く、甘く静かな時を過ごした。

 ――その行為のさなか、季音はふと、逃亡を企てたあの夜に彼が言った言葉を思い出した。

『男の床に入ったのは初めてではないだろう』

 その本当の意味を、今になってようやく理解した。

 遠い昔、詠龍だった頃。彼とは〝違う意味で〟何度か同じ床で過ごしたことがあった。凍える寒さの夜に抱きしめて眠ってくれたこと、咳をすれば背をさすってくれたこと……。

 濡れた視界の先、熱い息を吐き、悩ましげな面持ちの彼を見上げながら、季音の心に温かくも切ない記憶が蘇った。

「どうした? まだ痛いか……?」

 髪を撫でられ、目尻や頬に甘い接吻(くちづけ)を落とされる。それがこそばゆく、だが途方もなく幸せで堪らない。

「大丈夫です。龍志様と繋がれて、こうなれて幸せなんです」

 ずっと、こうされたかったんです……。そう言って季音が彼の背に回した手に力を込めると、彼は照れたような表情を浮かべ、また深く甘く唇を塞いだ。

 そして……過去世の酒の失敗も、ついでのように思い出してしまった。

 病弱な身体なのに、そんな望みは叶わないと分かっていたのに。「詠龍様との子どもが欲しい」「抱いて欲しい」と彼に強請ったのだ。そして、詠龍を組み敷き、彼の上に跨がる……そんな醜態を晒していた。

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