愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
たった五日なのに、何年も会っていなかったかのように懐かしく感じた。季音は頬を赤く染め、彼をじっと見上げた。
「龍志様、びしょ濡れじゃないですか。おかえりなさい」
応えた後、自然と踵が上がった。爪先で立ち、頭一つ高い彼に、季音は自分から接吻」してしまった。
触れるだけの接吻は一瞬だったが、とてつもなく甘美に感じた。
だが、なんて恥ずかしいことをしてしまったのだろうと気づくのはすぐだった。季音は彼から身を引こうとしたが、彼が腰にぎゅっと腕を回すので逃げられなかった。
「そんなに俺がいなくて寂しかったのかよ。阿呆みたいに可愛いことしてくれて……」
憎まれ口を叩くが、彼は嬉しそうだった。
そんな龍志が愛おしく、堪らなく可愛く思えて『寂しかったです』と返すと、彼の耳はたちまち赤く色づいた。
***
びしょ濡れの二人は一つの傘に入ってボロ屋に戻る。
そうして、玄関の引き戸を開いたと同時に、季音は息を飲む。龍志の部屋に、白い装束を纏った見知らぬ初老の男が立っていたのだ。
……人だろう。だが、生命の流れは一切感じられず、ただ静かに佇んでいた。龍志は驚く様子もなく、男に無言で近づく。
「親父、また来たのか?」
その言葉に季音は唖然とした。
彼は五日前に神葬祭に行ったばかり。どういうことなのか……季音は龍志と目の前の彼の父を交互に見た。
親子だけあって、目元の雰囲気は確かに似ている。だが、皺の寄った吊り上がった目には精気がなく、ただ虚空を見つめていた。
「どうした、神の元に行くんじゃないのか。まだ未練でもあるのか? 道が分からねぇなら俺が送ってやるぞ」
そう言って龍志が懐から何かを取り出そうとした瞬間、彼の父は首を振り白装束の懐から一枚の札を取り出した。
「札か? どうしたんだ……」
龍志が尋ねると、父は頷き、季音の前に音もなく歩み寄ると、そっとそれを手渡した。
「え……私に?」
季音が目を丸くすると、父は唇を綻ばせ、頷いた。
そして、龍志に向き直ると、綺麗な一礼をして姿を消してしまった。
季音の手には、しっかりと札が残っていた。達筆すぎて何と書いているか分からず首を傾げると、龍志がそれを覗き込む。
「吉河の御札だな。縁起物だ。俺の生家の社寺は厄除けと縁結びで有名だ」
「龍志様、びしょ濡れじゃないですか。おかえりなさい」
応えた後、自然と踵が上がった。爪先で立ち、頭一つ高い彼に、季音は自分から接吻」してしまった。
触れるだけの接吻は一瞬だったが、とてつもなく甘美に感じた。
だが、なんて恥ずかしいことをしてしまったのだろうと気づくのはすぐだった。季音は彼から身を引こうとしたが、彼が腰にぎゅっと腕を回すので逃げられなかった。
「そんなに俺がいなくて寂しかったのかよ。阿呆みたいに可愛いことしてくれて……」
憎まれ口を叩くが、彼は嬉しそうだった。
そんな龍志が愛おしく、堪らなく可愛く思えて『寂しかったです』と返すと、彼の耳はたちまち赤く色づいた。
***
びしょ濡れの二人は一つの傘に入ってボロ屋に戻る。
そうして、玄関の引き戸を開いたと同時に、季音は息を飲む。龍志の部屋に、白い装束を纏った見知らぬ初老の男が立っていたのだ。
……人だろう。だが、生命の流れは一切感じられず、ただ静かに佇んでいた。龍志は驚く様子もなく、男に無言で近づく。
「親父、また来たのか?」
その言葉に季音は唖然とした。
彼は五日前に神葬祭に行ったばかり。どういうことなのか……季音は龍志と目の前の彼の父を交互に見た。
親子だけあって、目元の雰囲気は確かに似ている。だが、皺の寄った吊り上がった目には精気がなく、ただ虚空を見つめていた。
「どうした、神の元に行くんじゃないのか。まだ未練でもあるのか? 道が分からねぇなら俺が送ってやるぞ」
そう言って龍志が懐から何かを取り出そうとした瞬間、彼の父は首を振り白装束の懐から一枚の札を取り出した。
「札か? どうしたんだ……」
龍志が尋ねると、父は頷き、季音の前に音もなく歩み寄ると、そっとそれを手渡した。
「え……私に?」
季音が目を丸くすると、父は唇を綻ばせ、頷いた。
そして、龍志に向き直ると、綺麗な一礼をして姿を消してしまった。
季音の手には、しっかりと札が残っていた。達筆すぎて何と書いているか分からず首を傾げると、龍志がそれを覗き込む。
「吉河の御札だな。縁起物だ。俺の生家の社寺は厄除けと縁結びで有名だ」