青春とりもどせない症候群
「写真撮らせて」
「なんの?」
「きみのだよ。妊娠記念日」
「フフッ」

彼の可愛い一言で、私の素直じゃない仮面がぽろぽろ崩れていく。
「おなかの写真じゃないの?」
「もちろんおなかも撮る」
「好きなだけ撮らせてあげるよ。帰ったら。
きみはいっしょに写らないの?」
「てっ……
照れくさい、から……」

茹でたエビより真っ赤になって目をそらした彼を見て、私もつい顔が熱くなった。
と同時に、目がしらも熱くなった。
「ほ、ほら! やっぱり不安定なんじゃん!!
あったかくして早く帰ろ」
「ご、ごめん……」
「今、お会計してくるからね。今日は俺が払うからね。あ、あと、タクシーも呼ぶ」
「まだ電車あるじゃん」
「タクシーで帰ろうよ。大事な時期じゃん」
(アッ、
照れくさい)

素直になるのはむずかしい。小さい頃から素直になりたくないばっかりに我慢と無理を自分に強いてきた。
それはとても無駄なことだったけれど、仕事中にキラキラを保てるのはその鍛錬があるから。
そして、同じような育ち方をしたきみに出会えた。

「結婚してください」
「断る」
「彼氏からお願いします」
「どうしよっかな」
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