甘く苦く君を思う
海から上がると砂浜に座り潮風に吹かれながら色々な話をした。彼は私の背に手を回し寄りかからせてくれる。そのたくましい腕にドキドキする。

「さっきの話だけど……。正直、今まで付き合った人がいない訳じゃない。でもここ数年は仕事に追われ、そういったことはなかった。嘘じゃない。それに今まで付き合ったといっても沙夜とは違うんだ」

風に吹かれた私の前髪をそっと耳にかけてくれながら見つめてくる。

「沙夜は特別なんだ。沙夜の前ではうまくできないことだらけだ。でも離れたくない」

「昴さんに限って上手くできないことなんてないと思う」

なんでも卒なくこなす彼のイメージからそう口にすると苦笑いを浮かべる。

「沙夜にはそう見えているのならよかった」

少し気まずそうに笑う彼の顔が少しだけ可愛く見える。

「沙夜も俺の過去を知りたいって思ってくれたんだよな? 少し嬉しいよ」

「うん。私なんかが隣にこうしていてもいいのかなって本当は思ってる。でも昴さんにこうやって話してもらえて本当に嬉しいの」

正直なところいつまでもこの不安は拭えないのではないかと思っている。彼の隣に立てるだけの自信はないから。でも今、この瞬間だけでも隣にいられることに幸せを感じてしまう。
彼は何度も私の髪を撫で、そのまま頬に触れる。
私も彼をそっと見つめると視線が絡まりあい、またキスをした。
波音しか聞こえてこないこの場所で夕陽が沈むまでずっと眺めていた。

「ここで見た景色、一生忘れないな」

彼の言葉に私も頷く。

「私も。こうして昴さんとここで夕陽を見られてよかった。特別な場所になっちゃいましたね」

「あぁ。また何度でも来ような」

彼は私を抱き上げ、立ち上がらせてくれる。手を繋ぐとまた歩きだし、いつまでもこの手を離したくないと思った。
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