甘く苦く君を思う
旅館の敷地に入った瞬間にとても驚かされた。
門構えが立派だとは一瞬思った。でもエントランスに車が横付けされるともっと驚かされた。
着物をきた女将が従業員や仲居さんたちと共に待ち構えていたからだ。テレビドラマでしか見たことのない光景に車から降りるのを躊躇ってしまう。今までこんな応対を受けたことがない。私が友達といくホテルは自分で荷物を持ち、フロントでチェックインをするとルームキーをもらい、自分でエレベーターに乗り部屋の向かうもの。これが私の知っているスタンダードだ。
車がエントランスに着くと従業員が並んでお出迎えなんて信じられなかった。

「お待ちしておりました」

そう言うと、全員に挨拶をされる。私はどうしたらいいかわからず頭を下げる。昴さんはどこか慣れているようで、「お世話になります」とスマートな返事をしていた。
彼に言われ、座席に置かれているバッグをスタッフが取り出すとフロントに案内されるが、また中に入った途端に驚かれされた。
正面は一面ガラス張りになっており、見事な日本庭園が広がっていた。私が見惚れている間にさっと彼はチェックインしてしまう。

「さ、こちらにどうぞ」

仲居さんに先導され部屋に向かうが、なぜか建物から外に出てしまう。出入り口には番傘が置かれておりなんだか風情があった。
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