甘く苦く君を思う
少し歩くと池に面して東屋があった。
その少し先に見えてきたのが小さな別棟。仲居さんが鍵を開けると中から畳のいい匂いがしてきた。入ってみると和洋室になっているようで和室では座椅子が置かれくつろげるようになっており、窓際にあるロッキングチェアからはのんびりと庭を見れるようだ。そして小上がりを上がるとクイーンサイズ?ううん、もっと大きいかもしれないサイズのベッドが1台置かれていた。
気が着くと仲居さんがお茶を入れてくれており、どうぞごゆっくりと声をかけられた。
昴さんはそっとポチ袋のようなものを取り出し、「彼女とのんびりさせてもらいにきました。よろしくお願いします」といいそっと手渡していた。
ここまで立派な旅館になると心づけというものが必要になるのか、と感心してしまう。彼女も要領を得ているようで、さりげなく受け取ると部屋から出ていった。

「すごい旅館ですね」

「あぁ、本当に。思っていた以上だな」

彼はそういうと座椅子に座り、お茶を口にした。私も正面に座るとお茶をいただくが、彼の存在感に圧倒されてしまう。彼がここにいても何も不自然さを感じない。むしろ馴染んでいるといった方がいいのかもしれない。反対に私は借りてきた猫のようにこの場にしっくりきていない。

「あの……よく来るの? ここ高くない?」

恐る恐る聞くと彼は首を振る。

「まさか、こんなすごいところよく来るわけないだろう。初めてだよ。値段は少し張るけど、初めての旅行なんだから張り切らせてくれ」

「え? 自分の分は払うよ。私だって仕事してるもの」

どこに連れて行かれるか内緒にされていたが、旅行に行く限り自分の分は自分で払うつもりだった。
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