甘く苦く君を思う
金曜の朝、彼は車で迎えにきた。
今まで彼と出かけるのは電車ばかりだったから車を持っていないのかと勝手に思っていた。だから車で出かけようと言われ少し驚いた。初めて見た彼の車は白いアウトドアタイプの車で、彼のイメージになんとなく合っている気が詩がした。
荷物を後ろに置くから、と私のバッグを受け取ると積み込んでくれた。ちらっと見ると隣には彼のバッグも置かれていた。
助手席に座ると彼は運転席に回り込み、シートベルトをつけた。
車には詳しくないが、なんだか実家で乗っている車とはシートの柔らかさが違う気がする。内装も私の知る車とはどこか違い、なぜかふいに理由もわからないが不安になった。

「さて、行こうか」

車を運転する彼を初めて見たが、よく運転するのかとてもスムーズな走りだしだった。ブレーキも丁寧で、車に乗っているあいだ怖いと思う場面は一度もなかった。むしろ久しぶりに会った彼と会話が弾み、あっという間に目的地に到着した。
着いたところは箱根。東京から車で2時間もかからずに到着した。
美術館の駐車場に入ると車から降りた。

「ここでランチもしようか」

そう言うと彼は私の手を取った。一緒に歩く時はいつも手を繋ぐのが自然になっていた。
美術館のステンドガラスから光が入り込みとても綺麗でしばらく釘付けになってしまった私を急かすことなく彼も一緒に見上げてくれる。お互い会話もなく天井を見上げているだけのそんな時間でさえ、気を遣わずリラックスしてしまう。彼と一緒にいるとどうしてこんなに自然な自分でいられるのかわからない。ただ、こうしてふたりで過ごす時間が当たり前のように感じた。
庭園が見えるレストランでランチにする。豚肉のソテーのアップルソースがかかっているものと鶏肉のジンジャーソースがけを注文すると焼きたてのパンが食べ放題でついてきた。彼に聞くと、この付いてくるパンが美味しいと評判になっていると言う。
私はふたつ、彼は4つ取り皿に取り分けてもらった。
料理もお互い注文したものをシェアして食べた。2倍楽しめるねと彼は喜んでおり、あまりこういったことをしたことがなかったのかなとふと思った。
食後のハーブティーを飲みながら庭園を眺めているだけでなんだかとても豊か気持ちになるのはどうしてだろうか。
彼と一緒にいると何気ない日常でさえもなぜか幸せな気持ちにさせてくれる。
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