甘く苦く君を思う
「いいんだ。せっかくの初めての旅行だから俺にカッコつけさせて」

そういうとこの話はおしまいとばかりに話を変えられてしまう。見るからに高そうな旅館に会社員の彼に甘えていいのだろうかと悩むが、カッコつけさせてと言われてしまうとこれ以上は言えない。最初で最後の贅沢な旅館だろうからその分満喫しなければと心の底でそう思った。

「温泉にもう入る?」

この部屋には外に露天風呂が付いているようだ。私はウキウキしながら見に行くと彼も付いてきた。

「すごいね。部屋に付いている露天風呂なのに大きい。それに景色も最高じゃない?」

「あぁ、そうだな」

でもまだ夕方の薄暗がりではなんだか恥ずかしい。彼と何度か夜を共にしてはいるが、それでもやっぱりこの明るさには抵抗がある。
昴さんは気にしていないようで私にまた、入る?と聞いてきた。でもなんだか笑っていて、私が恥ずかしがってるのを見て楽しんでいるんだと思った。

「入りません」

「残念だな。ま、それは後のお楽しみってことにするか」

クククっと笑う姿に思わず、バカと軽く彼を叩いた。
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