甘く苦く君を思う
「母親失格ですよね……」

ポツリとこぼれた言葉に彼は驚いたように顔を向けた。

「そんなこと言うな。渚ちゃんはそんなこと思っていないはずだ。現に今もこうして沙夜にピッタリくっついて甘えるように安心しきってるじゃないか」

彼のまっすぐな言葉に胸の奥から熱いものが込みあがり、涙がこぼれそうになる。
(どうして……、どうして今になってこんなふうに寄り添ってくれるの?)
3年前に信じてもらえなかった痛みが思い出されるが、今の彼の言葉にはあの頃とは違う暖かさがあった。でもそれが返って私の心をかき乱す。

「家まで送る」

そういうと私の荷物を持ち、立ち上がった。
私は彼の後ろについて行った。
あの頃はこの背中を見ていつも安心感を覚えていた。頼りがいのあるこの大きな背中を見ると守られているような気持ちになっていたのを思い出してしまった。
そんなのはもう過去なのに今更思い出すなんて情けない。
渚のことで心が疲れてしまったのかもしれない。
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