義兄に恋してたら、男になっちゃった!? こじ恋はじめます
「おっと」
兄は少し驚いた顔を浮かべた。その瞳がどこか悲しげに揺れている気がして、胸がわずかに痛む。
でも――そんなはずない。兄が私に突き放されたくらいで落ち込むなんて、ありえない。
「もう、二人ともじゃれ合っちゃって。ほんと仲良しなんだから」
母が微笑みながら寄ってきた。
「兄妹、仲良きことはいいことだ」
父はそう言って、兄の頭をくしゃくしゃに撫でる。
「父さん、やめてよ。もうガキじゃないんだから」
兄は照れたように身を引いた。その仕草が可愛くて、思わず頬が緩む。
――はっ、いけない。油断するとすぐにときめいてしまう。
私は首を振って気を引き締めた。
「あ、僕そろそろ行きますね。今日はちょっと早めに行って、唯のために準備しておかないと」
時計を見ながら父が言った。
「あら、そうなの~? いってらっしゃい」
母がにこやかに応じ、二人は自然にキスを交わす。子どもの前だろうとおかまいなしだ。
慣れているとはいえ、やっぱり少し恥ずかしい。ふと兄と目が合い、慌てて逸らす。しまった、あからさまだったかも。
「行ってきます」
手を振る父を三人で見送った。
「さて、俺たちも準備しないとな。初日から遅刻なんてシャレにならねえしな」
兄が悪戯っぽく笑い、私の頭をぐしゃっと撫でる。
「もう、せっかくセットしたのに、やめてよ!」
私が怒ると、兄は楽しそうに笑った。その笑顔にまた見惚れてしまう。
……こっちの気持ちなんて、全然わかってない。
「……いじわる」
小さく漏れた声は、きっと兄には届いていない。