義兄に恋してたら、男になっちゃった!? こじ恋はじめます

「おっと」

 兄は少し驚いた顔を浮かべた。その瞳がどこか悲しげに揺れている気がして、胸がわずかに痛む。

 でも――そんなはずない。兄が私に突き放されたくらいで落ち込むなんて、ありえない。

「もう、二人ともじゃれ合っちゃって。ほんと仲良しなんだから」

 母が微笑みながら寄ってきた。

「兄妹、仲良きことはいいことだ」

 父はそう言って、兄の頭をくしゃくしゃに撫でる。

「父さん、やめてよ。もうガキじゃないんだから」

 兄は照れたように身を引いた。その仕草が可愛くて、思わず頬が緩む。

 ――はっ、いけない。油断するとすぐにときめいてしまう。

 私は首を振って気を引き締めた。

「あ、僕そろそろ行きますね。今日はちょっと早めに行って、唯のために準備しておかないと」

 時計を見ながら父が言った。

「あら、そうなの~? いってらっしゃい」

 母がにこやかに応じ、二人は自然にキスを交わす。子どもの前だろうとおかまいなしだ。

 慣れているとはいえ、やっぱり少し恥ずかしい。ふと兄と目が合い、慌てて逸らす。しまった、あからさまだったかも。

「行ってきます」

 手を振る父を三人で見送った。


「さて、俺たちも準備しないとな。初日から遅刻なんてシャレにならねえしな」

 兄が悪戯っぽく笑い、私の頭をぐしゃっと撫でる。

「もう、せっかくセットしたのに、やめてよ!」

 私が怒ると、兄は楽しそうに笑った。その笑顔にまた見惚れてしまう。

 ……こっちの気持ちなんて、全然わかってない。

「……いじわる」

 小さく漏れた声は、きっと兄には届いていない。


< 22 / 264 >

この作品をシェア

pagetop