義兄に恋してたら、男になっちゃった!? こじ恋はじめます

「それで、そのネズミはどうなったの?」

 皮肉混じりに問いかけると、男は真剣な面持ちで頷いた。

「ああ、数分後には元に戻ってしまったんだ。
 その後もしばらく観察を続けたけれど、それっきり変身は起こらなかった。
 何が原因かを確かめたくて、同じネズミにもう一度薬を与えてみたんだけど、今度はまったく反応がなかった。それで今度は、別の個体でも試してみたんだけど……」

 そう言いながら、男は腕を組み、遠くを見つめる。
 まるで何か神聖な記憶を回想しているかのように。

「変身が続く時間はまちまちだった。でも、どの個体も一度戻ったら、それっきり。もう二度と変身は起こらなかった。
 なんとも不思議な現象だ。……それが、なんとも神秘的で、興味をそそられた」

 男は語りながら、熱に浮かされたような目をして、静かに笑った。

 背筋に冷たいものが走る。
 “研究者”って、こういうタイプが多いんだろうか……。正直、ちょっと怖い。

 思わず顔をしかめる。
 そのとき、彼の視線がまっすぐに私をとらえた。

「そこでだ! もしかして人間にも効くんじゃないか。
 そう思った瞬間、希望が一気に広がったんだ! 化学者としての魂が震えてさ……もう、試さずにはいられなかった。それで――」

 男の瞳がキラリと光る。

 それに選ばれてしまったのが、私ってこと?

 じょ、冗談じゃない。
 もしかしなくても、私ってめちゃくちゃ運が悪いのでは。

 自分の運の悪さを呪いながら、ただジト目でにらみ返すしかなかった。


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