陰キャな彼と高飛車な彼女 隠された裏の顔

エピローグ〜柔らかい光の中で〜

　あの日の屋上から、いくつもの季節が巡った。
　
　今、柔らかい朝の光がリビングの窓からゆるやかに差し込んでいた。
　
　ソファの上には開きっぱなしのラップトップ。　画面の中央には、黒い文字で静かに打たれた『The End』。

　ボサボサな髪と無精髭姿の星川は背もたれに体を預け、肩の力を抜いた。その隣で、夏來が湯気の立つマグをテーブルに置く。

　
　「はい、お疲れさま。コーヒーじゃなくて今日はルイボスティーね。カフェイン抜き」

　「お、気が利くな。……さすが営業の鬼」

　「誰が鬼よ」
　

　苦笑しながら、夏來は星川の肩に軽くもたれた。
　
　お腹のあたりで、小さな動き。星川が視線を下げ、自然とその上に手を添える。

　
　「また動いたな」

　「うん。最近、活発でね。……あんたに似て観察好きなんだと思う」

　「へぇ？　俺に似たら無口になるかもな」

　「そしたら困るわ。ツッコミ役がいなくなる」

　
　そんな軽口を交わしながら、二人はふっと笑い合った。

　窓の外には、冬の朝らしい澄んだ青空が広がり、透き通る光が静かに満たしていた。凛とした空気の中で、時間の流れがゆっくりと溶けていくように穏やかだった。


　星川が小さく息を吐き、夏來の髪に唇を寄せる。触れるだけのキス。それは言葉よりも静かで、確かな愛の形だった。

　
　「……なあ、夏來。この先、どんな物語になっても、俺はお前の隣で書き続ける」

　「ふふっ……当たり前でしょ。だって――」

　
　夏來は星川の胸に顔をうずめ、そっと笑った。

　
　「――だってあたしは、最強運がいいんだから」

　
　ラップトップの画面に残る『The End』は、まるで三人の新しい章の始まりを静かに照らしているかのように。