陰キャな彼と高飛車な彼女 隠された裏の顔
 星川は胸ポケットからスマホを取り出し、録音ボタンを押す仕草をしてみせた。


 「はい、証拠ゲット。これでもう取り消せないな」

 「ちょ、何やってんのよ!」


 慌てる夏來に、星川は笑いを収めて真っ直ぐ視線を向ける。


 「……じゃあ、いつ引っ越してくるんだ?」


 軽口のように聞こえた。だがその瞳の奥には、彼女の心を溶かしていくような、柔らかな光が宿っていた。
 
 夏來の胸が大きく跳ねる。クルッと顔を背け、赤くなった頬を隠した。


 「……バカじゃない」


 小さく吐き捨て、それからため息をつく。


 「……もういいわよ。日程くらい決めれば?」


 星川はニヤリと笑い、スマホのカレンダーを開いた。


 「おう、じゃあ決めようか」


 そして何気ない口調で付け加える。


 「……それと。これから俺が書いたものは、編集者より先にお前が一番最初に読む。
 ……永久の報酬代わりにな」


 その『永久』という一語が、夏來の胸に思いがけないほど深く響き、じんわりと暖かさを広げていった。

 (ほらね、やっぱりあたしは最強運がいい!)


 文句を言いながらも、夏來も自分のスマホを取り出す。二人は自然に画面をのぞき込み、日付を合わせ始めた。



 窓の向こう、高くそびえるタワーが、夜空に淡い光を放っていた。まるで二人の未来を、静かに照らしているかのように。
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