明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
「……私は……」

喉の奥が詰まり、言葉にならない。

けれど、このまま黙ってしまえば、すべてが終わってしまう。

両手を膝の上で握りしめ、私は声を振り絞った。

「私は……桐島中尉を……志郎さんを、お慕いしております。」

その瞬間、父の眉がぴくりと動いた。

一瞬の沈黙。

私の胸は、期待と不安で張り裂けそうになっていた。

だが、父の声は冷徹だった。

「気持ちは分かった。だが、それとこれとは別だ。」

「お父様……!」

「家同士の結びつきに、娘の恋情を持ち込むことは許されん。筋を通さねばならぬのだ。情に流されては、家の名に泥を塗ることになる。」

「そんな……」

声が震え、視界が滲む。

父は盃を取り上げ、揺るがぬ口調で言い切った。

「雪乃。おまえの気持ちは無にしろとは言わん。だが、すべては“お見合いの席”で決める。それが家の道理だ。」
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