明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
私の中で何かが崩れ落ちた。

――やはり、私の想いは届かなかったのだ。

志郎さんが拳を固く握りしめる気配が伝わる。

けれど父の厳格な表情は微動だにしない。

その場にいた私は、ただ涙をこらえることしかできなかった。

私は志郎さんを玄関まで見送った。

夜風が冷たく、胸の奥まで染み込んでいく。

「すみません……お父様を説得できなかった。」

悔しげに眉を寄せる志郎さんに、私は慌てて首を振った。

「いいんです。やっぱり……まだ恋愛結婚は早すぎたんです。」

涙を拭いながら、わざと微笑んだ。

その笑みがどれほど不自然だったか、自分でも分かっていた。

「雪乃。」

名を呼ぶ声と同時に、温かな腕が私を包み込む。

「俺は何度でも、結婚を申し込みに来る。」

胸に響いたその誓いに、堪えていた涙があふれた。

「志郎さん……」

「だから雪乃も、俺への想いを忘れないで欲しい。」
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