明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
志郎さんの父も苦笑し、母は安堵の息をついた。

私は涙で視界を滲ませながら、隣に座る志郎さんを見上げた。

「お父様……」

父は優しく目を細めて言った。

「雪乃。これで心置きなく添い遂げるがいい。」

そして志郎さんは、軍服のポケットに手を差し入れた。

「それはっ!」

私の胸が大きく波打つ。

志郎さんの掌にのっていたのは――先日、私が返してしまった小箱だった。

「先日、あなたから受け取った婚約指輪です。」

彼は静かに言い、改めて私の前に差し出した。

「雪乃さん。……改めて言います。俺と結婚してください。」

座敷に静寂が落ちる。

けれど私の胸の奥には、熱いものが込み上げて止まらなかった。

「ああ……志郎さん……」

涙が頬を伝い、止めどなく溢れていく。

彼の真剣な眼差しが、すべてを受け止めてくれる。

「返事を、聞かせてください。」

震える声に押され、私は両手で小箱を受け取った。

そして、涙でにじむ視界の中で、必死に頷いた。
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