明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
「……よかろう。」

「お父様……!」

涙が視界を滲ませる中、父の声音は穏やかだった。

「筋も通した。これで文句を言う者はおらん。雪乃を、頼んだぞ。」

志郎さんは深々と頭を下げ、力強く答えた。

「はい!」

「それでは――盃を。」

仲人の声に、女中が静かに酒を運んできた。

磨き上げられた三つ重ねの盃に、透明な酒が注がれていく。

志郎さんと私、そして両家の父母が正座する中、居間は張り詰めた静けさに包まれていた。

けれど胸の奥には、不思議と温かい灯がともっている。

「まずは新郎となる桐島中尉から。」

盃を受け取った志郎さんは、私を見つめてから一息に飲み干した。

その眼差しに「一生離さない」という誓いが宿っているのが伝わり、思わず頬が熱くなる。

続いて私の手に盃が渡された。

白い酒面が揺れ、指先がかすかに震える。

けれど、志郎さんがそっと頷いてくれたことで、私は迷わず口をつけた。
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