明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
次に志郎さんと会った日。

茶屋の座敷に腰を下ろすと、私はカバンから小箱を取り出した。

「志郎さん……これを。」

彼に渡した瞬間、驚愕の表情が浮かぶ。

「雪乃⁉」

「……私は、お見合い相手の方と結婚します。」

自分でも震えている声が、やけに冷たく響いた。

志郎さんは信じられないというように私の隣に来て、低く叫んだ。

「断るって言ったじゃないか!」

私はううんと首を横に振った。

「あなたにだって……縁談があるじゃない!」

志郎さんの瞳が揺れ、やがて彼はうつむいた。

「……知っていたのか。」

「女将さんも……父も知っていたわ。」

絞り出すように言葉を吐くと、胸の奥が痛んだ。

志郎さんは拳を膝に打ちつけ、苦しげに息を吐く。

「雪乃……俺は……」

その言葉の続きを待ちながらも、私はもう目を合わせることができなかった。

畳の上で握りしめた手は震え続けていた。
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