この恋を運命にするために
信士さんは少し考える仕草をしたのち、私に向かって向き直る。
「正直に言いますが、君がどうということではなく今は誰とも恋愛する気はないんですよ。仕事に集中したくてね」
「お仕事、ですか」
「刑事というのは常に危険が伴う仕事です。私はいずれ捜一に配属されるでしょうし」
「ソウイチ?」
「捜査一課のことです」
「ああ」
殺人事件を扱う課のことだ。
刑事部の花形部署と呼ばれていることは流石の私でも知っている。
「恨みも買いやすい職業です。こんなことを言っては難ですが、刑事の妻なんて君には相応しくない」
その言葉には少しムッとした。
「私では刑事の妻は務まらないと言いたいのですか」
「そうじゃない、美しい花を生ける君にこそ相応しい相手は他にもいると言いたいんです」
「私の花、美しいと思ってくださったんですか?」
「当然でしょう」
信士さんは真顔で答える。
「華道に関してはズブの素人ですが、独創的で美しいと思いました」
「ほ、本当ですか」
「ラン科の花だけで生けているというのも大胆で面白い。蘭さんらしいと思いました」
信士さんは真犯人を指名した時と同じように淡々と語った。
一見冷たく感じるが、私にはとても誠実な人に映っていた。
私らしいと言ってくれたことが何より嬉しい。
ランの花こそ一番のこだわりだったから。
自分自身をそのまま映したような作品を褒められ、私自身のことを認めてくれたように感じる。