この恋を運命にするために
その時、ふと脳裏に浮かんだ。
今まで子どもは欲しいと思って、自分の子と遊ぶ姿を想像したことはあってもパートナーの姿は全く想像つかなかった。
いつもモヤのようなものがかかっていたのに、初めて誰かの顔で想像してしまった。
「……っ」
そんな想像してしまうくらいにはもう、彼女のことを――。
*
「送ってくれてありがとう」
時間はあっという間で、蘭ちゃんの自宅まで到着していた。
流石は千寿流ともいうべきか、なかなか立派な日本家屋だ。
「蘭ちゃん」
「はい?」
胸に芽生えた気持ちを伝えるべきか迷ったが、流石に今ではないなと思った。
「――いや、次はいつ会える?」
「えっ」
「この前は途中ですっぽかすことになったから改めて食事でもどうかって、本当はそれが言いたかったんだ」
「……! いいの?」
ふわっと華やぐような笑顔で頬を染める表情がかわいい。
「また会ってくれるの?」
そんなに嬉しそうにされると、このまま帰したくなくなるんだけど――。
抱きしめたい衝動を抑え込み、笑顔を浮かべる。
「次は最後まで一緒にいよう」
「え、それって――」
「後で非番の日送るからどこに行きたいか考えておいて」
「は、はいっ」
「蘭ちゃん、」
ぽんぽんと、軽く頭を撫でる。
「おやすみ」
「……おやすみなさい」
暗かったが月の光に照らされて少しだけ見えた彼女の顔は、ほんのりと朱に染まっていた。
目の前の彼女のことしか見えていなくて、俺たちの様子を見ていた者がいたことに不覚にも気づかなかった。