この恋を運命にするために
信士さんは今日もスーツを上品に着こなしていた。
ハイブランドのスーツも腕時計も信士さんのために作られたと言っても過言ではない程よく似合っている。
「仕事で近くに寄ったので。千寿流の生け花にも興味ありましたしね」
「どうぞゆっくりご覧になってください!」
本当に来てくださるとは思っていなかった。
すごく嬉しくてそれだけで好きになってしまう。
信士さんは一人で来られたようで、ゆっくりじっくりと一つ一つの作品を眺めていた。
私はこの後の来賓者をもてなさないといけないため、信士さんとは入口で挨拶したきりだった。
信士さん、私の作品見てくれたかしら?
つい信士さんのことを視線で探してしまう。
「らーんちゃん」
チャラそうな声が聞こえた時、思わず顔が引き攣りそうになったが何とか笑顔を作った。
「こんにちは、八代さん。来てくださってありがとうございます」
「蘭ちゃんのためなら絶対行くよー」
彼の名前は八代蔦彦。
ヤシロ百貨店の御曹司でうちのお得意様だ。
「蘭ちゃん、この後の予定は? ディナーでもどう?」
「あーー……今日は一日忙しいんですよねぇ」
「えー? 家元の娘なんだし誰かに任せちゃえばいいじゃん」
「そういうわけにもいかないんです」