俺が、私で、アイドルで - 秘密を抱いてステージへ
第3章:理解と許し
鏡張りのスタジオに、かすかなヒールの音が響いた。
振り向くと、入り口に母の姿があった。腕を組み、スーツ姿のまま仁王立ちしている。
「お母さん……」
瞳の声に、母は答えない。ただ、スカウトマンの城戸が軽く会釈した。
「お忙しい中ありがとうございます。藍原さんにどうしても、彼の“今”を見ていただきたくて」
母はスタジオの隅に立ち、表情を動かさなかった。
「五分だけ。くだらない真似をしてるなら、すぐに帰るから」
瞳は練習位置に戻り、呼吸を整える。曲が流れる。
踏み出した瞬間、空気が変わった。
ステップ、ターン、跳躍。声を乗せると、自分でも驚くほど伸びやかに響く。
汗が額を伝い、髪が乱れ、息が荒れる。それでも瞳の目は、真っすぐ鏡を見据えていた。
――こんな顔、母は知らない。
曲が終わり、スタジオに静寂が落ちた。
瞳は肩で息をしながら、母の姿を探す。
スタジオの隅に立つ薫は、腕を組んだまま微動だにしない。表情は読めなかった。けれど、その視線の奥に、わずかな揺らぎを瞳は感じ取った。
「……こんな顔、してたのね」
小さくつぶやいた声は、驚きとも呟きともつかぬ調子だった。
薫は視線を落とし、用意された書類に目を通す。長い沈黙。ペンを取る手が、わずかに震えた。
「勘違いしないで」
低く抑えられた声が、紙の上に落ちる。
「私は、あなたを認めたわけじゃない。ただ……止める権利もないのかもしれない」
ペン先が走る音が、スタジオに響いた。
瞳は唇をかみしめる。胸の奥に熱いものが込み上げるのを、必死でこらえた。
――母が完全に受け入れたわけじゃない。
――けれど、それでも。ここから、始められる。
振り向くと、入り口に母の姿があった。腕を組み、スーツ姿のまま仁王立ちしている。
「お母さん……」
瞳の声に、母は答えない。ただ、スカウトマンの城戸が軽く会釈した。
「お忙しい中ありがとうございます。藍原さんにどうしても、彼の“今”を見ていただきたくて」
母はスタジオの隅に立ち、表情を動かさなかった。
「五分だけ。くだらない真似をしてるなら、すぐに帰るから」
瞳は練習位置に戻り、呼吸を整える。曲が流れる。
踏み出した瞬間、空気が変わった。
ステップ、ターン、跳躍。声を乗せると、自分でも驚くほど伸びやかに響く。
汗が額を伝い、髪が乱れ、息が荒れる。それでも瞳の目は、真っすぐ鏡を見据えていた。
――こんな顔、母は知らない。
曲が終わり、スタジオに静寂が落ちた。
瞳は肩で息をしながら、母の姿を探す。
スタジオの隅に立つ薫は、腕を組んだまま微動だにしない。表情は読めなかった。けれど、その視線の奥に、わずかな揺らぎを瞳は感じ取った。
「……こんな顔、してたのね」
小さくつぶやいた声は、驚きとも呟きともつかぬ調子だった。
薫は視線を落とし、用意された書類に目を通す。長い沈黙。ペンを取る手が、わずかに震えた。
「勘違いしないで」
低く抑えられた声が、紙の上に落ちる。
「私は、あなたを認めたわけじゃない。ただ……止める権利もないのかもしれない」
ペン先が走る音が、スタジオに響いた。
瞳は唇をかみしめる。胸の奥に熱いものが込み上げるのを、必死でこらえた。
――母が完全に受け入れたわけじゃない。
――けれど、それでも。ここから、始められる。