第零作★血文字の告白★
第一部 ― 調査の開始
翌朝、私は町役場の古い資料室に足を運んだ。廃屋のことを調べるためだ。昨夜見た血文字が脳裏から離れなかった。夢にまで現れ、目が覚めた瞬間も赤黒い「ゆるして」の残像が視界に浮かんでいた。
役場の職員に聞くと、あの家は「神谷家」の旧宅だという。
二十年以上前、当時の一家は忽然と姿を消したらしい。父母、そして小学生の娘ひとり。失踪届は出されていたが、結局、行方は分からないまま。村人たちは口を閉ざし、事件そのものもやがて風化していった。
――だが、その痕跡は今も壁に残っている。血文字という形で。
私はさらに足を延ばし、村の古老に話を聞いた。
白髪の老人はしばらく沈黙したのち、低い声で言った。
「……あの家には近づくな。神谷はな、自分の罪に耐えられず……」
「罪? 何のことです?」
「知りたくば、自分で調べろ。だが……命を落としても知らんぞ」
老人はそれ以上口を割らなかった。
取材を終え、夜になって山道を戻る途中、私はハンドルを切る手を止めた。
道端のガードレールに、赤黒い液体が飛び散っているのを見つけたのだ。
乾ききってはいない。ついさっき付いたものだ。
恐る恐る近づくと、そこにはまたも文字が描かれていた。
ガードレールに指でなぞるようにして、こう刻まれていた。
「しらべるな」
背筋が凍った。
これは二十年前の亡霊ではない。
――誰かが、今この瞬間も生きて、血で告げている。
翌朝、私は町役場の古い資料室に足を運んだ。廃屋のことを調べるためだ。昨夜見た血文字が脳裏から離れなかった。夢にまで現れ、目が覚めた瞬間も赤黒い「ゆるして」の残像が視界に浮かんでいた。
役場の職員に聞くと、あの家は「神谷家」の旧宅だという。
二十年以上前、当時の一家は忽然と姿を消したらしい。父母、そして小学生の娘ひとり。失踪届は出されていたが、結局、行方は分からないまま。村人たちは口を閉ざし、事件そのものもやがて風化していった。
――だが、その痕跡は今も壁に残っている。血文字という形で。
私はさらに足を延ばし、村の古老に話を聞いた。
白髪の老人はしばらく沈黙したのち、低い声で言った。
「……あの家には近づくな。神谷はな、自分の罪に耐えられず……」
「罪? 何のことです?」
「知りたくば、自分で調べろ。だが……命を落としても知らんぞ」
老人はそれ以上口を割らなかった。
取材を終え、夜になって山道を戻る途中、私はハンドルを切る手を止めた。
道端のガードレールに、赤黒い液体が飛び散っているのを見つけたのだ。
乾ききってはいない。ついさっき付いたものだ。
恐る恐る近づくと、そこにはまたも文字が描かれていた。
ガードレールに指でなぞるようにして、こう刻まれていた。
「しらべるな」
背筋が凍った。
これは二十年前の亡霊ではない。
――誰かが、今この瞬間も生きて、血で告げている。