第零作★血文字の告白★
 第三部 ― 真相への糸口

 民宿での一夜を越え、私は決意した。
 ――このまま逃げても、血文字は私を追ってくる。
 ならば、真相を突き止めるしかない。

 村役場の資料に残されたわずかな新聞記事を頼りに、私は当時の取材にあたった地方紙の記者を探し出した。すでに退職していたが、山裾の古い家にひっそり暮らしていた。

 「神谷家の件を……まだ追っているのか」
 白髪混じりの記者は苦笑しながら、黄ばんだスクラップ帳を差し出した。
 そこには未掲載の写真や記事の下書きが残されていた。

 その一枚に、私は息をのむ。
 神谷家の庭先を撮った写真。その地面に、かすかに血で書かれた文字があったのだ。
 ――「ごめんなさい」

 「だがな、これは表に出せなかった」
 記者は声を潜めた。
 「警察が封じたんだ。当時、事件性を認めれば、村全体の評判が地に落ちる。だから“失踪”として処理された」

 私は写真を食い入るように見つめた。
 廃屋の壁の「ゆるして」、ガードレールの「しらべるな」、民宿の手紙の「つぎはおまえだ」……すべて同じ筆跡。
 だが、この庭先の「ごめんなさい」だけは、どこか幼い文字に見えた。

 ――もしかして、血文字を書いていたのは子ども……?
 神谷家の小さな娘が、事件の真実を訴えようとしていたのではないか。

 帰り道、山道を歩いていると、再び背後に気配を感じた。
 振り返ると、茂みの中に一瞬、人影が消える。
 追いかけると、そこには古びたランドセルが落ちていた。

 埃をかぶったその表面に、小さな指でなぞったような赤い跡が残っている。

 「たすけて」

 私は戦慄した。
 二十年前の事件は、まだ終わっていない。
 ――神谷家の娘は、本当に死んだのか?
 それとも、彼女だけが“生き延びて”血文字を残し続けているのか?
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