第零作★血文字の告白★
 終幕 ― 告白の意味(絶望型)

 夜の廃屋は、昼間よりもさらに静まり返っていた。
 壁に刻まれた血文字は、薄闇の中でじっとこちらを睨んでいるように見える。

 「……もう、わかった。真犯人は――」

 そう口にしかけたとき、背後で床板が軋んだ。
 刃物を握った影が、闇から迫る。

 咄嗟に身をかわしたが、次の瞬間、鋭い痛みが脇腹を貫いた。
 声を上げることもできず、私は床に倒れ込む。

 視界が滲む中、壁の血文字が揺らめいて見えた。
 やがて新しい一文が、赤黒く浮かび上がっていく。

 「つぎは おまえだ」

 震える手で床をなぞる。血に濡れた指が、勝手に動く。
 ――「ゆるして」
 ――「たすけて」

 気づけば、私自身が“血文字の告白”を書いていた。
 あれほど追ってきた惨劇の声に、今度は自分が取り込まれたのだ。

 意識が途切れる寸前、壁一面が赤に覆われていくのが見えた。
 それはもはや一人の叫びではなかった。
 二十年の闇に葬られた声が、幾重にも重なって渦巻いていた。

 ――この村は、まだ終わらない。
 血文字は、次の犠牲者を待っている。
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