皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
翌日から、令嬢としての教育が本格的に始まった。

食事のマナー、立ち居振る舞い、言葉遣い……細かい所作ひとつで人となりを問われる世界。

「確かに、王宮にいただけの事はあって、賢いですね。」

先生の一人は、私の覚えの早さを素直に評価してくださった。

その言葉に少し誇らしい気持ちになり、頑張ってきた甲斐があると胸をなで下ろした。

けれど――。

「そこのステップは、もっと軽やかに!」

厳しい声に、思わず足を止める。

ダンス。

それが一番難しかった。

ついこの前、アルキメデスと踊ったときのように、ただリードに身を任せるだけでは済まされない。

舞踏会で人々の目にさらされる「皇太子妃候補」として、完璧さを求められているのだ。

「ダンスと言っても、いろんな種類がありますから。」

先生は諭すように言う。

ワルツ、メヌエット、ガヴォット……次々と知らない名前が飛び出す。

頭では分かっていても、体が思うようについていかない。

額に汗がにじみ、思わず唇を噛みしめた。
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