皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
その日の湯浴みの当番は、私だった。

湯殿の中、私は湯船に熱い湯を注ぎながら、彼の背を見つめる。

惜しみもなく露わになった鍛え上げられた体は、皇太子という立場を忘れさせるほど力強く、けれどどこか疲れを滲ませていた。

「お湯加減はどうですか。」

恐る恐る問いかけると、セドは低く答えた。

「ああ、ちょうどいい。」

本当はぬるめを好むはずなのに、この日はやけに熱い湯を求めていた。

心の痛みを、熱さで誤魔化しているように思えてならない。

私は俯き、声を整えた。

「本日……クラリッサ姫は、自国へお戻りになりました。」

「それは、よかった。」

静かな返答に、胸が締めつけられた。

安堵と同時に、どうしようもない切なさがこみ上げる。

気づけば、頬を熱いものが伝っていた。

「どうして泣く?」

振り返ったセドが、そっと私の涙に触れた。

大きな掌が頬を撫でる。

その優しさに、私の心はさらに揺さぶられていくのだった。
< 14 / 151 >

この作品をシェア

pagetop