皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
セドが私の手を取ると、オーケストラが新たな旋律を奏で始めた。

重厚な音が会場に広がり、視線がふたたび私たちに集中する。

「エリナ。俺と踊ってくれるか。」

差し伸べられた手に、私は深く息を整えて頷いた。

「はい、殿下。」

その瞬間、広間の空気が変わる。

セドに導かれて、一歩、また一歩と優雅に舞い出る。

緊張していた足取りも、彼の確かなリードに支えられ、自然と軽やかさを取り戻していった。

「綺麗だ……」

「皇太子殿下の隣にふさわしい。」

「これが愛されている女性の輝きなのね。」

囁きが耳に届くたび、胸の奥が温かくなる。

私の視線の先にいるのはセドだけ。

「大丈夫だ、エリナ。」

踊りの合間に囁かれる声が、私を強くする。

「おまえは、誰よりも美しい。」

頬が熱くなる。けれど、その言葉に背を押され、私は一層しなやかにステップを踏んだ。

やがて曲が高まり、セドが私を抱き寄せる。

煌めくシャンデリアの下で、二人の影がひとつに重なった瞬間、会場から大きな拍手と歓声が湧き起こった。

――この舞踏は、ただの踊りではない。

セドと私の未来を示す、誓いそのものだった。
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