皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
扉がきしむ音に、私は心臓が跳ね上がった。

振り返ると、そこに立っていたのはアルキメデスだった。

彼の鋭い視線が、散らかった書類と、乱れた私の姿を一瞬でとらえる。

まるで胸の奥まで見透かされるようで、息が詰まった。

「殿下……エリナに溺れ過ぎです。」

低く響いた声には、怒りではなく、深い痛みが混じっていた。

だがセドは動じない。腕の中の私をさらに強く抱き寄せ、余裕の笑みを浮かべる。

「そうか? エリナが魅力的すぎるんだよ。」

挑むような言葉に、私は恥ずかしさで顔を伏せた。

肩からずり落ちたドレスを、そっと整えてくれたのはアルキメデスだった。

指先がかすかに震えていたのを、私は見逃さなかった。

「アルキメデス……」

名前を呼ぶと、彼はかすかに目を細める。

「君が幸せなら……それでいいんだ。」

その言葉は優しすぎて、胸を裂かれるように苦しかった。
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