皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
「ですが、侍女が妃になれるとは思えません。」

側近の冷静な一言に、胸がざわついた。

「そこなんだ。」

ルーファス公爵閣下も深い溜め息を漏らす。

「できれば二人に幸せになって欲しい。だが……壁が高すぎるんだ。」

その言葉は、正論であるがゆえに重く、鋭く心に突き刺さった。

――やっぱり。

侍女が皇太子妃になれるはずがない。

分かり切っていることなのに、愛されるたびに夢を見てしまう自分が愚かしくて、目に涙があふれ出した。

必死に手で拭ったけれど、止まることはなかった。

その時、ふと気配を感じて振り向くと――廊下の影に立っていたのはアルキメデスだった。

「アルキメデス……」

驚きと恥ずかしさで声が震える。

彼の瞳には、私の涙も、そして公爵と側近の会話も、すべて映っていた。
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